物理の入試問題を解く

Ⅰ.コンデンサーと抵抗の直列回路

 コンデンサーの基礎について、CとRの直列回路を例にとって説明します。
コンデンサーを含む回路では、スイッチを閉にした直後と、それから十分に時間が経った後の状態を正しく考察することが大事です。
それに加えて、この章では、微分方程式を解くことでその途中の状態についても考察します。

 

 

 

 コンデンサーは、両極板間の電位差(電圧)に比例した電荷(電気量)を極板に蓄えることができる電気部品です。
 その比例定数が電気容量\(C\)です。

 

 コンデンサーに蓄えられる電気量(電荷)を\(Q\)、コンデンサーの電気容量を\(C\)、極板間の電位差(電圧)を\(V\)とすれば、

\begin{equation} Q=CV \tag{1-1} \end{equation}

 (1-1)式は非常に重要な式ですから、必ず覚えます。

 

 コンデンサーは2枚の金属製の極板を向かい合わせて作られます。
2枚の極板の間は、空気の場合もありますが、電気容量を大きくするために多くの場合は誘電体が入っています。

 

 空気も誘電体も絶縁物ですから、一方の極板から他方の極板まで、極板間を電荷が移動することはありません

 

コンデンサー1_1_CとRの直列回路(1)

 

 

 

 

 

 右図1-1では、起電力が\(E\)の電池と電気容量\(C\)のコンデンサー、抵抗値が\(R\)の抵抗とスイッチ\(S\)が図のように接続されています。

 

 

 コンデンサーに蓄えられた電荷が\(0\)の状態でスイッチ\(S\)を閉じると、電流が流れ始め、コンデンサーの極板に電荷が蓄えられます。それにつれて、コンデンサーの電圧が増加し、電池の起電力に匹敵するようになると、それ以上は電流が流れなくなります。

 

 

 

 

 

 

 

コンデンサー1_2_CとRの直列回路(2)

 

 

 

 

 スイッチ\(S\)を閉じると、電池の+極側から+(プラス)の電荷が抵抗やコンデンサーに向かって流れ始め、同時に電池の-極側へ+(プラス)の電荷が流れ込み始めます。この+の電荷の移動が「電流」です。
 一見、電池の+極から出た電流がコンデンサーを通って電池の-極に帰ってきたように見えますが、電荷がコンデンサーに蓄えられる様がそのように見えるということです。コンデンサーに電荷が蓄積されてコンデンサーの電圧が増加していくことにより、ある時点で電流は流れなくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところが、導線のような金属の中で動くことができる電荷は-(マイナス)の電荷を持つ「電子」です。

 

 したがって、図1-2のイメージは仮想的なものであり、
正しくは、図1-3のとおりです。

コンデンサー1_3_CとRの直列回路(3)

 

 

 

 スイッチ\(S\)を閉じると、電池の-極側から-(マイナス)の電荷を持つ電子がコンデンサーや抵抗に向かって流れ始め、同時に電池の+極側へ-(マイナス)電荷の電子が流れ込み始めます。 

 

 しかし、問題を解く上では、図1-2のように、プラスの電荷が移動していると考えるほうが考察しやすいということがあるので、本稿でも主に図1-2の立場で説明をします。
 どちらの説明においても、コンデンサーの極板のうち電池の+極側にプラスの電荷が蓄えられ、電池の-極側の極板にマイナスの電荷が蓄えられます。
 コンデンサーの+極板に蓄えられるプラスの電荷と-極板に蓄えられるマイナスの電荷の電気量の絶対値は常に等しいです。

 

 コンデンサーに蓄えられるマイナス電荷は電子です。
 プラス電荷は、電子が抜けることによって現れた金属原子が持つ電荷です。通常の金属は電流として動くことができる電子と動くことができない金属原子のプラスの電荷の数は等しく、電荷は\(0\)であるように見えます。しかし、電子の分布が偏ると、電子のマイナス電荷が現れたり、金属原子のプラス電荷が現れたりします。この電子の分布の偏りが、コンデンサーの両極板でおこっています。

 

 

 

コンデンサー1_4_CとRの直列回路(4)

 図1-4のように電流と電圧を仮定します。
 電流は、電池の+極側から-極側に閉回路を右回りに流れます。
抵抗\(R\)による電圧降下(あるいは、Rの電位差)を\(V_R\)、コンデンサーによる電圧降下(あるいは、Cの電位差)を\(V_C\)とします。
図1-4の\(V_R\)と\(V_C\)の緑色の矢印は、電位差の高低を示します。
矢印の印があるほうが電位が高く、印がないほうが低い電位です。

 

 抵抗について言えば、抵抗を図1-4で下から上に電流が流れるわけですから、抵抗の下側の端子の電位が高いはずです。
 コンデンサーについて言えば、コンデンサーの左側極板に電池から+電荷が流れるので、こちら側の電位が高くなります。

 

 電池の+極側から電流が流れる向きにたどっていくと、
抵抗\(R\)の下側端子の電位は電池の+極側と同じ電位ですが、抵抗\(R\)で\(V_R\)だけ電位が下がり、コンデンサー\(C\)で\(V_C\)だけ電位が下がり、電池の-極側の電位と等しくなります。
 したがって、次のような式が立てられます。
\begin{eqnarray} E&=&V_R+V_C \tag{1-2} \\
&=&RI+V_C \tag{1-3}
\end{eqnarray}

 

 最初の状態で\(C\)に蓄積されている電荷は\(0\)であるとします。
 そして、時刻\(t=0\)でスイッチ\(S\)を閉じます。

 

Sを閉じた直後では\(Q=0\)のはずですから、\(Q=CV_C\)から、\(V_C=0\)です。
(1-3)式に代入すると、\(t=0\)での電流値\(I_0\)が得られて、\(I_0=\frac{E}{R}\)です。

 

 十分時間が経過すると、\(C\)に電荷が蓄積し、\(V_C\)が増加し、やがて、\(E\)に匹敵するようになり、電流は流れなくなります。
つまり、\(I=0\)、\(V_C=E\)です。

 

 

 次に、電流\(I\)が時間の関数であることを意識して\(I(t)\)と書くことにして、この関数を求めてみます。
(1-3)式の\(V_C\)は、\(Q\)を\(C\)に蓄えられた電荷として、次のように表されます。
\begin{eqnarray} V_C&=&\frac{Q}{C}  \tag{1-4} \\
&=&\frac{1}{C}\int_0^t I(t)dt \tag{1-5} \\
ここで、Q&=&\int_0^t I(t)dt \tag{1-6}
\end{eqnarray}
 (1-6)式の意味は時刻\(t=0\)から\(t\)までの間にコンデンサーに流れ込んだ電流(電流は単位時間に移動する電荷の量です)の当該時間に渡っての和(積分)がコンデンサーに蓄えられた電荷\(Q\)に等しいことです。
電流の単位が[A]=[C/s]であることを思い起こしてください。つまり、[C] =[A・s]です。
電流に時間をかけたものが電荷で、電流が時間変化を示す場合は(1-6)式の積分で表されます。
 もう少し説明を加えると、\(I(t)\Delta t\)が微小時間\(\Delta t\)にコンデンサーに蓄えられる電荷です。
したがって、\(t=0\)から\(t\)までの間には、(1-6)式で表される電荷が蓄えられることになります。

 

 

 (1-5)式により、(1-3)式は次のように書き換えられます。
\begin{eqnarray} E=RI(t)+\frac{1}{C}\int_0^t I(t)dt \tag{1-7} \\
両辺をtで微分して、0=R\frac{dI(t)}{dt}+\frac{1}{C}I(t) \\
\frac{dI(t)}{dt}=-\frac{1}{CR}I(t) \tag{1-8}
\end{eqnarray}
 (1-8)式から、[電流]-[時間]のグラフで電流のグラフの傾きは負で、時間が経つにつれ電流が減少することから、傾きも小さくなっていきます。
そして、十分に時間がたつと、傾きは\(0\)になることなどがわかります。

 

 

 (1-8)式は微分方程式です。
これを解いてみます。
 まず、両辺を変形します。
\begin{eqnarray} \frac{1}{I(t)}\frac{dI(t)}{dt}&=&-\frac{1}{CR} \tag{1-9} \\
両辺をtで積分すると、\int\frac{1}{I(t)}\frac{dI(t)}{dt}dt&=&-\int\frac{1}{CR}dt \\
\int\frac{1}{I(t)}dI(t)&=&-\int\frac{1}{CR}dt \\
\ln |I(t)|&=&-\frac{t}{CR}+C_1 \\
I(t)&=&e^{C_1}e^{-\frac{t}{CR}} \tag{1-10}
\end{eqnarray}
ここで、\(C_1\)は積分定数です。

 

 初期条件は\(t=0\)で\(I=\frac{E}{R}\)ですから、\(e^{C_1}=\frac{E}{R}\)です。
したがって、
\begin{eqnarray}
I(t)&=&\frac{E}{R}e^{-\frac{t}{CR}} \tag{1-11} \\
V_R&=&RI(t)=Ee^{-\frac{t}{CR}} \tag{1-12} \\
V_C&=&E-RI(t)=E\left(1-e^{-\frac{t}{CR}}\right) \tag{1-13} \\
Cの電荷Qは、Q&=&\int_0^tI(t)dt=\frac{E}{R}\int_0^te^{-\frac{t}{CR}}dt \\
&=&\frac{E}{R}\left[-CRe^{\frac{-t}{CR}}\right]_0^t \\
&=&CE\left(1-e^{-\frac{t}{CR}}\right) \tag{1-14}
\end{eqnarray}
 (1-14)式は\(Q=CV_C\)からも求めることができます。

 

 

 

コンデンサー1_5_CとRの直列回路(5)

 さて、(1-11)(1-12)(1-13)(1-14)式をグラフに示します。
 回路を流れる電流\(I(t)\)は図1-5のようになります。
縦軸が電流\(I\)、横軸が時刻\(t\)です。
 \(t=0\)で\(I=\frac{E}{R}\)、\(t\to\infty\)で\(I=0\)です。
指数関数のこのグラフの形を覚えておきましょう。

 

 下図1-6に抵抗Rの電圧\(V_R\)、コンデンサー\(C\)の電圧\(V_C\)、コンデンサー\(C\)の電荷\(Q\)の時間による変化を示します。
\(V_R=RI(t)\)ですから、\(V_R\)のグラフと\(I(t)\)のグラフの形は同じです。
 \(Q=CV_C\)ですから、\(V_C\)のグラフと\(Q\)のグラフの形は同じです。
\(V_C\)と\(Q\)は\(t=0\)で\(0\)、\(t\to \infty\)で一定値に漸近することを覚えておきましょう。

コンデンサー1_6_CとRの直列回路(6)

 

 

 

コンデンサー1_7_CとRの直列回路(7)

 さて、図1-1の回路で、抵抗\(R\)が変化したときにグラフがどう変化するかを押さえておきます。
 図1-7を参照してください。

 

 3つのグラフが示されていますが、灰色⇒橙色⇒青色の順に抵抗が低くなっています。

 

 抵抗が低ければ、電流が流れやすく(\(t=0\)で\(I=\frac{E}{R}\)です)、そのため、短時間でコンデンサーに電荷が蓄えられて電池と同じ電圧となるため、電流のグラフは、最初に大きく流れ、より短い時間で\(0\)に達します。

 

 ところで、(1-11)(1-12)(1-13)(1-14)式で、\(e\)の指数部は\(-\frac{1}{CR}\)です。
つまり、\(R\)が小さくなっても、\(C\)が小さくなっても、グラフの変化の傾向は同じです。 (注:それぞれの式の\(e\)の項の係数は、\(R\)だけ、または、\(C\)だけを含むため、完全に同じというわけではありません。)
 \(C\)の容量が減少すると、少ない電荷量で電池の起電力\(E\)の大きさに達するわけですから、より短い時間で\(0\)になります。

 

 

 電流の変化から予想されるように、\(V_R\)は、抵抗が低いほど、\(t=0\)で\(E\)であったものが、より短い時間で\(0\)に達します。
また、\(V_C\)は\(t=0\)で\(0\)であったものが、より短い時間で電池の起電力\(E\)に達します。
\(Q\)は\(V_C\)と同じ変化をします。
 以上の内容を、図1-8で確認してください。

コンデンサー1_8_CとRの直列回路(8)

 

 

Ⅱ.コンデンサーを含む回路でキルヒホッフの法則を使う

 コンデンサーを含む回路について、キルヒホッフの法則の適用法を解説しています。
起電力の項と電圧降下の項を明確に区別し、設定した電流の流れの向きに対して各項の正負を正しく判別します。

 

 

コンデンサー2_1_CとR2個の回路(1)

 

 

 右図2-1は図1-1の回路のコンデンサーに並列に抵抗\(R_2\)が入っています。
これだけで、回路がぐんと難しくなった感じがします。

 

 それでも、\(S\)を閉じた直後(\(t=0\))と十分に時間が経過したときの電流を計算することはできます。

 

 \(t=0\)で、コンデンサーの電荷が\(0\)とすると、コンデンサー(同時に、抵抗\(R_2\))の電圧は0です。

 

 したがって、電池の電圧\(E\)はすべて抵抗\(R_1\)にかかります。

 

 コンデンサーの極板間は絶縁されていて電荷が移動することはないのですが、電荷を蓄えることはできるので、\(S\)を閉じた直後においては、見かけ上電流をよく通す導体のように見えます。
つまり、\(R_2\)の両端を導線でつないだ回路と等価だと考えることができるので、このときに流れる電流は\(\frac{E}{R_1}\)と計算できます。

 

 時間が経過するにつれて、\(C\)に電荷が溜まり、\(C\)(同時に、\(R_2\))の電圧は増加していき、ある電圧に達すると、それ以上は\(C\)の電荷は増加しないようになります。

 

 このとき、\(C\)に電流は流れないわけですから、あたかも\(C\)につながる導線が切断されている回路と等価だと考えることができて、電池の起電力\(E\)は\(R_1\)と\(R_2\)の直列回路に加わっていることになります。

 

 したがって、\(R_1\)と\(R_2\)に流れる電流は、\(\frac{E}{R_1+R_2}\)となり、\(C\)の電圧は(\(R_2\)の電圧と等しいことから)\(\frac{R_2E}{R_1+R_2}\)となることがわかります。

 

 

 以下では、キルヒホッフの法則を用いて立式し、もう少し詳しい解析を試みます。

 

 

 キルヒホッフの法則は次のとおりです。

 キルヒホッフの第一法則  回路中の交点について
                   流れ込む電流の和=流れ出る電流の和
 キルヒホッフの第二法則  回路中の一回りの閉じた経路について
                   起電力の和=電圧降下の和

 

コンデンサー2_2_CとR2個の回路(2)

 

 図2-1の回路にキルヒホッフの法則を当てはめてみます。

 

1.最初に閉じた経路を見つけます。

 

 この回路では、図2-2に示すように3つの「閉じた経路」が見つかります。
しかし、3つすべてを利用する必要はありません。

 

 「閉じた経路」ひとつについてひとつの電流値を割り振るのが目的ですから、
すべての電気部品(図2-2では、抵抗、コンデンサ、電池)が少なくとも1個の「閉じた経路」に含まれるように、最小数の「閉じた経路」を選びます
 そうすると、1と2の組み合わせでも、1と3の組み合わせでも、2と3の組み合わせでも良いことになります。

 

 ここでは、最初に1と2の組み合わせで解いてみます。

 

 

2.選択した「閉じた経路」について、電流の向きを設定します。

 

 電流の向きは好きに決めてよいのですが、「閉じた経路」が電池を含む場合には、電池が流そうとする電流の向きに一致させておくとキルヒホッフの式を立てやすくなります

コンデンサー2_3_CとR2個の回路(3)

 

 ここでは、図2-3のように電流の向きを設定します。  
 緑色の線の矢印の向きに電流\(I_1\)と\(I_2\)が流れると仮定します。
これは、電池が流そうとする電流の向きと一致しています。

 

 

3.各部品に流れる電流値を確認します。

 

 コンデンサー\(C\)には、\(I_2\)が矢印の向きに流れます。
 抵抗\(R_2\)には、電流\(I_1\)が矢印の向きに流れます。
 抵抗\(R_1\)、および、電池には\(I_1\)と\(I_2\)の電流が流れます。流れる向きは同じですから、\(I_1+I_2\)の電流が矢印の向きに流れます。

 

 さて、「閉じた経路」を選択して、電流の流れを仮定して、上のように各部品を流れる電流を求めると、これがキルヒホッフの第一法則を満足していることを確認してください。

 

 

 

 

4.キルヒホッフの第二法則を立式します。

 

  「閉じた経路」がふたつあるので、方程式もふたつになります。

 

  最初に「閉じた経路1」について、
    左辺(起電力)は、\(E\)です。\(E\)の向きと\(I_1\)の向きは一致しているので、\(E\)の符号は正です。
    右辺(電圧降下)は、\(R_1\)での電圧降下は、(流れる電流が\(I_1+I_2\)であることに注意して、\(R(I_1+I_2)\)です。
                 \(R_2\)での電圧降下は、\(R_2I_1\)です。
    したがって、
\begin{equation} E=R_1(I_1+I_2)+R_2I_1 \tag{2-1} \end{equation}

 

  次に「閉じた経路2」について、
    左辺(起電力)は、\(E\)です。\(E\)の向きと\(I_2\)の向きは一致しているので、\(E\)の符号は正です。
    右辺(電圧降下)は、\(R_1\)での電圧降下は、(流れる電流が\(I_1+I_2\)であることに注意して)\(R_1(I_1+I_2)\)です。
                 \(C\)での電圧降下は、\(V_C\)です。
                   コンデンサーに蓄えられた電荷が\(Q\)であれば、\(V_C=\frac{Q}{C}\)です。
    したがって、
\begin{eqnarray} E&=&R_1(I_1+I_2)+V_C \tag{2-2} \\
&=&R_1(I_1+I_2)+\frac{Q}{C} \tag{2-3}
\end{eqnarray}

 

 以上より、得られた連立方程式は、
\begin{eqnarray} E&=&R_1(I_1+I_2)+R_2I_1 \tag{2-1} \\
E&=&R_1(I_1+I_2)+\frac{Q}{C} \tag{2-3}
\end{eqnarray}

 

 

コンデンサー2_3_CとR2個の回路(3)

 

 

 

 

 

 

では、閉じた経路として、図2-2において、1と3を選択した場合にどのような式が導かれるかを検討します。

 

 図2-4のように電流の向きを仮定します。
注)図2-4を紹介するのは、図2-3に比べて「閉じた経路3」での立式には、より慎重な考察が必要であることを示すためです。

 

 さて、図2-4で各部品を流れる電流を確認します。

 

 コンデンサー\(C\)には、\(I_3'\)が矢印の向きに流れます。
 抵抗\(R_2\)には、電流\(I_1'\)と\(I_3'\)が流れますが、電流の向きが逆であることに注意して式を立てなければなりません。
 抵抗\(R_1\)、および、電池には\(I_1'\)の電流が流れます。

 

 

 

 

 

 

 

 それでは、キルヒホッフの第二法則を立式します。

 

  最初に「閉じた経路1」について、
    左辺(起電力)は、\(E\)です。\(E\)の向きと\(I_1'\)の向きは一致しているので、\(E\)の符号は正です。
    右辺(電圧降下)は、\(R_1\)での電圧降下は\(RI_1'\)です。
                 \(R_2\)での電圧降下は、\(I_1'\)と\(I_3'\)が逆向きに流れていて、「閉じた経路1」では\(I_1'\)の向きが正の向きですから、\(R_2\)での電圧降下は、\(R_2(I_1'-I_3')\)です。
    したがって、
\begin{equation} E=R_1I_1'+R_2(I_1'-I_3') \tag{2-4} \end{equation}

 

  次に「閉じた経路3」について、
    左辺(起電力)は、\(0\)です。起電力に相当するものがありません。
    右辺(電圧降下)は、\(R_2\)での電圧降下は、\(I_1'\)と\(I_3'\)が逆向きに流れていて、「閉じた経路3」では\(I_3'\)の向きが正の向きですから、\(R_2\)での電圧降下は、\(R_2(I_3'-I_1')\)です。
                 \(C\)での電圧降下は、\(V_C\)です。
                   コンデンサーに蓄えられた電荷が\(Q\)であれば、\(V_C=\frac{Q}{C}\)です。
                   ただし、\(C\)の電圧\(V_C\)の向きを図2-4に示した向きを正としており、\(C\)の左側極板に正の電荷\(Q\)が蓄えられるものと仮定しています。
    したがって、
\begin{eqnarray} 0&=&R_2(I_3'-I_1')+V_C \tag{2-5} \\
&=&R_2(I_3'-I_1')+\frac{Q}{C} \tag{2-6} \\
\end{eqnarray}

 

 以上より、得られた連立方程式は、
\begin{eqnarray} E&=&R_1I_1'+R_2(I_1'-I_3') \tag{2-4} \\
0&=&R_2(I_3'-I_1')+\frac{Q}{C} \tag{2-6}
\end{eqnarray}

 

 

 (2-4)(2-6)の連立方程式が(2-1)(2-3)の連立方程式と等価であることを確認します。

 

 図2-4と図2-3を比べ、それぞれの部品を流れる電流を比較します。

電気部品名

図2-3で示される電流

図2-4で示される電流

\(R_1\)

\(I_1+I_2\)

\(I_1'\)

\(R_2\)

\(I_1\)

\(I_1'-I_3'\)

\(C\)

\(I_2\)

\(I_3'\)

 

 この表から、次の関係があることがわかります。
\begin{eqnarray} I_1'&=&I_1+I_2 \tag{2-7} \\
I_3'&=&I_2 \tag{2-8}
\end{eqnarray}

 

 (2-7)(2-8)式を(2-4)式に代入すると(2-1)式が得られます。
また、
\begin{eqnarray} (2-4)式から、R_2(I_1'-I_3')&=&E-R_1I_1' \\
これを、(2-6)式に代入して、0&=&-E+R_1I_1'+\frac{Q}{C} \\
E&=&R_1I_1'+\frac{Q}{C}
\end{eqnarray}
この式に、(2-7)式を代入すれば(2-3)式が得られます。

 

 以上より、(2-4)(2-6)の連立方程式が(2-1)(2-3)の連立方程式と等価であることを確認できました。

 

 

 

 

 

コンデンサー2_5_CとR2個の回路(5)

 

 

 

 

 

 

 では、次に、図2-3において\(I_2\)の向きを逆に設定した場合にどのような式が導かれるかを検討します。

 

 図2-5のように電流\(I_1''\)と\(I_2''\)の向きを仮定します。

 

 

注)図2-5を紹介するのは、電流の向きの決め方の違いにより、式を立てる際に、より注意が必要となることを示すためです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでは、キルヒホッフの第二法則を立式します。

 

  最初に「閉じた経路1」について、
    左辺(起電力)は、\(E\)です。\(E\)の向きと\(I_1''\)の向きは一致しているので、\(E\)の符号は正です。
    右辺(電圧降下)は、\(R_1\)での電圧降下は、(流れる電流が\(I_1''-I_2''\)であることに注意して、\(R(I_1''-I_2'')\)です。
                 \(R_2\)での電圧降下は、\(R_2I_1''\)です。
    したがって、
\begin{equation} E=R_1(I_1''-I_2'')+R_2I_1'' \tag{2-9} \end{equation}

 

  次に「閉じた経路2」について、
    左辺(起電力)は、\(E\)ですが、\(E\)の向きと\(I_2''\)の向きは逆向きです。
               \(I_2''\)の向きに電流を流すには、\(E\)の符号は負でなければなりません。
    右辺(電圧降下)は、\(R_1\)での電圧降下は、(\(I_2''\)の向きに流れる電流が\(I_2''-I_1''\)であることに注意して)\(R_1(I_2''-I_1'')\)です。
                 \(C\)での電圧降下は、\(V_C\)の向きを図2-5のように考えているのであれば、\(-V_C\)です。
                   コンデンサーに蓄えられた電荷が\(Q\)で、\(V_C\)の向きに合わせて左側の極板に正の電荷が蓄えられると考えれば、\(-V_C=-\frac{Q}{C}\)です。
    したがって、
\begin{eqnarray} -E&=&R_1(I_2''-I_1'')-V_C \tag{2-10} \\
&=&R_1(I_2''-I_1'')-\frac{Q}{C} \tag{2-11}
\end{eqnarray}

 

 以上より、得られた連立方程式は、
\begin{eqnarray} E&=&R_1(I_1''-I_2'')+R_2I_1'' \tag{2-9} \\
-E&=&R_1(I_2''-I_1'')-\frac{Q}{C} \tag{2-11}
\end{eqnarray}

 

 

 (2-9)(2-11)の連立方程式が(2-1)(2-3)の連立方程式と等価であることを確認します。

 

 図2-5と図2-3を比べ、それぞれの部品を流れる電流を比較します。

電気部品名

図2-3で示される電流

図2-5で示される電流

\(R_1\)

\(I_1+I_2\)

\(I_1''-I_2''\)

\(R_2\)

\(I_1\)

\(I_1''\)

\(C\)

\(I_2\)

\(-I_2''\)

 

 この表から、次の関係があることがわかります。
\begin{eqnarray} I_1''&=&I_1 \tag{2-12} \\
I_2''&=&-I_2 \tag{2-13}
\end{eqnarray}
 図2-5では、図2-3の電流\(I_2\)の向きを逆にして立式したわけですから、(2-12)(2-13)式は当然の結果です。
そして、(2-9)(2-11)式に(2-12)(2-13)を代入すれば(2-1)(2-3)式が得られますから、(2-9)(2-11)の連立方程式が(2-1)(2-3)の連立方程式と等価であることが確認できました。

 

 

 以上で、「閉じた経路」をどう組み合わせても、電流の向きをどちらの向きにしても、得られる方程式は等価であることがわかりました
 等価であるならば、なるべく立式するときにミスが避けられるような、「閉じた経路」の選択と、電流の向きの設定をするのが賢明です。

 

 

 

 

 それでは、(2-1)(2-3)式の連立方程式を解いてみましょう。
\begin{eqnarray} E&=&R_1(I_1+I_2)+R_2I_1 \tag{2-1} \\
E&=&R_1(I_1+I_2)+\frac{Q}{C} \tag{2-3}
\end{eqnarray}

 

 \(Q\)は\(I_2\)に関連した量ですから、上のふたつの式から\(I_1\)を消去することを考えます。
\begin{eqnarray} (2-1)(2-3)式から、 R_1(I_1+I_2)+R_2I_1&=&R_1(I_1+I_2)+\frac{Q}{C} \\
R_2I_1&=&\frac{Q}{C} \\
(この式は、「R_2の電圧&=&Cの電圧」を示しています。) \\
I_1&=&\frac{Q}{CR_2} \tag{2-14} \\
この式を(2-1)式に代入して、E&=&\frac{R_1+R_2}{CR_2}Q+R_1I_2 \\
&=&\frac{R_1+R_2}{CR_2}\int_0^tI_2dt+R_1I_2 \tag{2-15} \\
両辺を微分すれば、0&=&\frac{R_1+R_2}{CR_2}I_2+R_1\frac{dI_2}{dt} \\
R_1\frac{dI_2}{dt}&=&-\frac{R_1+R_2}{CR_2}I_2 \tag{2-16} \\
\frac{1}{I_2}dI_2&=&-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}dt \\
両辺を積分して、\int\frac{1}{I_2}dI_2&=&-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}\int dt \\
ln|I_2|&=&-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t+C_1 \\
I_2&=&e^{C_1}e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t} \tag{2-17}
\end{eqnarray}
 ここで、\(C_1\)は積分定数です。
初期条件は、\(t=0\)で\(I_2=\frac{E}{R_1}\)ですから、

\begin{equation} I_2=\frac{E}{R_1}e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t} \tag{2-18} \end{equation}
 (2-1)式を変形して\(I_1\)を表す式を求め、(2-18)式を代入して\(I_1\)の式を求めます。
\begin{eqnarray} I_1&=&\frac{E}{R_1+R_2}-\frac{R_1}{R_1+R_2}I_2 \\
&=&\frac{E}{R_1+R_2}-\frac{R_1}{R_1+R_2}\frac{E}{R_1}e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t} \\
&=&\frac{E}{R_1+R_2}\left(1-e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t}\right) \tag{2-19}
\end{eqnarray}

 

 コンデンサーの電圧\(V_C\)は、(2-2)式から、
\begin{eqnarray} V_C&=&E-R_1(I_1+I_2) \\
&=&E-\frac{R_1E}{R_1+R_2}\left(1-e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t}\right)-\frac{R_1E}{R_1}e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t} \\
&=&E\left(1-e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t}\right)-\frac{R_1E}{R_1+R_2}\left(1-e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t}\right) \\
&=&\left(E-\frac{R_1E}{R_1+R_2}\right)\left(1-e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t}\right) \\
&=&\frac{R_2E}{R_1+R_2}\left(1-e^{-\frac{R_1+R_2}{CR_1R_2}t}\right) \tag{2-20}
\end{eqnarray}
 (2-20)式は、\(V_C=R_2I_1\)から求めることもできます。
 (2-20)式から、\(t=0\)で\(V_C=0\)、\(t\to \infty\)で\(V_C=\frac{R_2E}{R_1+R_2}\)となります。

 

 さて、\(I_1、I_2、V_C\)をグラフに描くと、下図2-6のようになります。

コンデンサー2_6_CとR2個の回路(6)

 

Ⅲ.コンデンサーに関わる電場と電位、および、極板にはたらく力

 コンデンサーの両極板間に生じる均一な電場について、極板の電荷や電位との関係を説明しています。
電気力線をイメージすることで考察が容易になります。

 

 

コンデンサー3_1_電位、電圧、極板にはたらく力(1)

 

 電場と電位について復習し、コンデンサーの両極板間にはたらく力を求めます。

 

 

 もう一度、図1-1の回路を考えます。
右に図3-1として、載せましたが、電池の起電力を\(E\)ではなく、\(V\)で表しているのが図1-1と異なる点です。
 また、電池の-極側を電位の基準(電位\(=0\))としています。

 

 この図は、十分に時間が経ったあとの様子を表していて、、コンデンサー\(C\)の両極板に電荷が蓄えられています。
この状態では、コンデンサーの電圧は電池の起電力\(V\)に等しくなっていて、回路には電流が流れていません。

 

 

 

 

 

 

コンデンサー3_2_電位、電圧、極板にはたらく力(2)

 この回路の各部の電位は、右図3-2のように表すことができます。

 

 特徴的なのは、各部の電位は\(V\)と\(0\)のどちらかに限られることです。
 電池は電位を-極側の\(0\)から+極側の\(V\)に持ち上げる働きをします。
 コンデンサー\(C\)には、\(CV\)に相当する電荷が蓄積されていて、コンデンサーにかかる電圧は\(V\)、コンデンサーの-極板は電池の-極側と同じ電位\(0\)で、コンデンサーの+極板は電位が\(V\)となります。

 

 抵抗には電流が流れていないので、抵抗の電圧降下は\(0\)で、抵抗全体が\(V\)の電位にあることになります。

 

 

 

コンデンサー3_3_電位、電圧、極板にはたらく力(3)

 念のため、コンデンサーに電荷が蓄えられていない状態で、スイッチ\(S\)を閉じた直後の電位を図に表すと、右図3-3のようになります。
 直後にはコンデンサーの電荷は\(0\)ですから、コンデンサーの両極板の電位は\(0\)で、電池の起電力\(V\)はすべて抵抗\(R\)にかかります。
抵抗の電池の-極側は電位\(0\)、+極側は電位が\(V\)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

コンデンサー3_4_電位、電圧、極板にはたらく力(4)

 

 次に電気力線を描きます。

 

 コンデンサーのように、正負等量に帯電した面積の広い2枚の極板が接近して平行に配置された場合、その極板間の空間での電場は一様な電場(強さと向きがどこでも同じ)となります。

 

 右図3-4では、図3-1のコンデンサー以外の部分を省き、コンデンサーの極板と極板間の電気力線を示しています。

 

 

 

電気力線は、電場の向きと強さを表します

電気力線の性質は、

 

・電気力線は正の電荷から出て、負の電荷に入る

 

電気力線上の各点での接線は、その点での電場の方向と一致する
 ⇒このことから、電気力線は折れ曲がらない、枝分かれしない、交差しない
   (折れ曲がった点では、接線(したがって電場の向き)がひとつに定まらないから)
   (枝分かれや交差があると その点では、電場の方向が複数あることになるから)

 

電気力線の密度は電場の強さを表す
 ⇒電場の強さが\(E\) [N/C]のとき、電場の方向と垂直な\(1[m^2]\)の面積を貫く電気力線の数は\(E\)[本]
 ⇒\(Q\)[C]から出る電気力線の総数は\(4\pi kQ\)
 注)等電位線(あるいは等電位面)についていえば、その間隔が密なところほど強い電場

 

電気力線は等電位線(あるいは等電位面)に対して垂直
 ⇒図3-4で、極板の表面はどこも同じ電位ですから、極板の表面近傍では電気力線は極板に対して垂直

 

コンデンサー3_5_電位、電圧、極板にはたらく力(5)

 

 

 以上を踏まえて図3-4を見ると、
 電気力線は左の+極側極板から出て右の-極側極板に入ります。この向きは電場の向きと一致します。
極板上で電荷は均一に分布しているので、電気力線の密度はどこも同じです。
 電気力線が極板から出るとき入るときは極板に対して垂直です。
極板の端では、電気力線が乱れて外側に膨らみますが、このときも、電極から出るとき入るときは電気力線は極板に対して垂直です。

 

 コンデンサーの極板の面積は非常に広くて、間隔はたいへん狭いということから、端での電気力線の乱れは考慮せず、図3-5のように極板の端までも一様な電場であるとみなすことにします。

 

 

 

 図3-5を用いて、電位\(V\)と電場\(E\)の関係を導きます。
ここで、極板間距離を\(d\)とします。

 

静電気力による位置エネルギーと電位は次のように定義されます。

 

 正の電荷を持つ物体が点Aから点Bに移動するときに静電気力がする仕事を、点B(基準点)に対する点Aにおける物体の静電気力による位置エネルギーと言います。

 

そして、電荷1[C] 当たりの、静電気力による位置エネルギーを、その点の電位と言います。

 

 以上のことを図3-5で確認します。
+極の極板の表面に\(+q (\gt0)\)の電荷を置き、これを-側の極板まで動かします。
電荷が動きやすいように、極板間は真空であると仮定します。

注) これまで極板の間は絶縁性であるため極板間を電荷が移動することはないと説明してきましたから、
   それと図3-5は矛盾すると思うかもしれません。
   絶縁物が電気を通さないのは、その中に電荷を運ぶもの(金属の自由電子に相当するもの)がないためです。
   極板には自由電子が存在しますが、これが簡単に極板間に出てくることはありません。
   極板に紫外線のようなエネルギーの高い光を当てるなどの特別な方法が必要になります。
   極板から電子を取り出すのは難しいのですが、
   いったん取り出された電子は極板間を電場にしたがって運動することができます。
   図3-5はそのような場合を扱っていると考えてください。

 

 極板間のどこでも電場の強さは\(E\)ですから、電荷にはたらく静電気力の大きさは\(qE\)で向きは+側極板から-側極場に向かう向きです。
 したがって、+側極板から-側極板まで電荷が移動するときに静電気力が電荷にする仕事は\(qEd\)です。
このことから、-側極板を基準として、+側極板に置かれた電荷\(q\)の正電気力による位置エネルギーは\(qEd\)です。
また、電位は\(Ed\)です。
したがって、
\begin{eqnarray} V&=&Ed \tag{3-1} \\
E&=&\frac{V}{d} \tag{3-2}   \\
位置エネルギー&=&qV \tag{3-3}
\end{eqnarray}
となります。
 静電気力の位置エネルギーと電位の関係をしっかり覚えましょう。
位置エネルギー\(qV\)と\(V\)を混同するというミスが起こりやすいです。

 

 

図3-5についてはもう少し説明が必要です。

 

 電荷\(q\)は、他にはたらく力がなければ、\(qE\)の大きさの力で加速され、-側の極板に速度\(v\)で衝突します。
このとき静電気力のした仕事は\(qEd\)ですから、仕事と運動エネルギーの変化量の関係から、次の式が成り立ちます。
\begin{equation} \frac{1}{2}mv^2-\frac{1}{2}m\times 0^2=qEd \tag{3-4} \end{equation}

 

 この式を次のように書き換えると、エネルギー保存を表す式になります。
\begin{eqnarray} \frac{1}{2}mv^2+q\times 0&=&\frac{1}{2}m\times 0^2+qEd \tag{3-5} \\
または、\frac{1}{2}mv^2+q\times 0&=&\frac{1}{2}m\times 0^2+qV \tag{3-6} \\
\end{eqnarray}

 

 この場合、(3-5)(3-6)式の\(qEd\)、および、\(qV\)は「静電気力が電荷にする仕事」というよりも「静電気力による位置エネルギー」を意味します。
エネルギー保存の式は、[運動エネルギー]+[静電気力による位置エネルギー]=[一定]を表しています。

 

 (3-4)式と(3-5)式を比べて覚えておいて欲しいのは、(3-5)(3-6)式のように「位置エネルギー」を用いてエネルギー保存の式を立てたとき、もはや、「静電気力による仕事」を考える必要はないということです。 前述の位置エネルギーの定義にあるように、「静電気力による仕事」をもとに「静電気力による位置エネルギー」が決まっているからです。

 

コンデンサー3_6_電位、電圧、極板にはたらく力(6)

 

 

 

 

 また、「電荷\(q\)をゆっくり+側極板から-側極板に移動する」という状況があります。

 

この、「ゆっくり」は、図3-6のように、静電気力\(qE\)に等しい外力\(f\)を電荷\(q\)にはたらかせながら、電荷を移動させるという意味です。

 

 電荷にはたらく合力は\(0\)ですから、等速度運動をしていると考えるわけですが、非常に「ゆっくり」とした移動になります。

 

 このとき外力\(f\)が電荷にした仕事は、電荷の移動の向きと外力の向きが逆であることから、\(-fd\)と表されます。
 この外力が、電荷のエネルギーの変化を引き起こします。
運動エネルギーには変化なく(ほとんど\(0\)と考えて)静電気力による位置エネルギーの変化量は、\(q\times 0-qV\)ですから、
\begin{equation} -fd=-qV \tag{3-7} \end{equation}
となります。
 何故この式を表したかと言えば、位置エネルギーの変化を考えているので、この式においても静電気力がする仕事を考えなくて良いということを伝えたいからです。
(電荷\(q\)にはたらく力の合力は\(0\)なので、電荷がされる仕事も\(0\)で・・・と考えると、混乱することになるので、注意が必要です。)

 

 

 

 

 

 

(3-2)式では、電場の強さ\(E\)を電位(電圧)から求めています。
 次に、(3-2)式を導く議論とは別の角度から電場の強さを求めてみます。

 

 具体的には、「ガウスの法則」を用います。

 

 「ガウスの法則」は、正の電荷を帯びた物体(帯電体)があり、周囲に電場を形成している場合に、
「電気力線に垂直で、帯電体を囲む閉曲面を考え、その微小面積部分\(\Delta S\)での電場の強さが\(E\)の場合、\(E\Delta S\)の閉曲面全体にわたる和は、閉曲面全体を貫く電気力線の総本数に等しい」というものです。

 

コンデンサー3_12_電位、電圧、極板にはたらく力(12)

 上記の「ガウスの法則」の文が分かりにくいかもしれないので、ここでは図3-4下の枠の中の「電気力線の性質」をもとにして「ガウスの法則」を考えます

 

 さて、右図3-7のように、+側の極板を取り囲む直方体状の閉曲面を考えます。 そして、コンデンサーの極板の面積を\(S\)とします。
 +側の極板には\(+Q (\gt 0)\)の電荷が、-側の極板には\(-Q\)の電荷が蓄えられているとします。

 

すると、\(+Q\)の電荷から出る電気力線の総数は、

 

 ⇒\(Q\)[C]から出る電気力線の総数は\(4\pi kQ\)

 

より、\(4\pi kQ\)です。

 

 この電気力線は閉曲面のうち極板間の極板と同じ大きさの面積\(S\)を貫きます。
電気力線の密度は\(S\)内では等しいので、この範囲で電場の強さ\(E\)は一定です。

 

 さて、電気力線の密度\(\frac{4\pi kQ}{S}\)と電場\(E\)の関係は、

 

 ⇒電場の強さが\(E\) [N/C]のとき、電場の方向と垂直な\(1[m^2]\)の面積を貫く電気力線の数は\(E\)[本]

 

より、\(\frac{4\pi kQ}{S}=E\)です。

 

 クーロンの法則の比例定数\(k\)誘電率\(\varepsilon\)には次の関係があります。
\begin{eqnarray} \varepsilon&=&\frac{1}{4\pi k} \tag{3-8} \\
E=\frac{4\pi kQ}{S} より、E&=&\frac{Q}{\varepsilon S} \tag{3-9}
\end{eqnarray}

 

 (3-9)式について付け加えます。
 極板間に比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体があれば、真空の誘電率を\(\varepsilon_0\)として、\(\varepsilon=\varepsilon_r\varepsilon_0\)です。
つまり、電極間が真空である場合に比べて電場の強さが\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)になります。
これは、後に述べるように、誘電体に誘電分極で生じる電荷により、電荷\(Q\)による電場が弱められるからです。

 

 

 

 

 

 コンデンサーの極板にはたらく力を求めます。

コンデンサー3_7_電位、電圧、極板にはたらく力(7)

 

 図3-8で状況を整理しておきます。
コンデンサーの電気容量は\(C\)、極板の間隔は\(d\)、両極板の電位差は\(V\)で、それぞれの極板は図のように帯電しています。

 

 +側の極板の電荷を\(+Q (\gt 0)\)、極板間の電場の強さを\(E\)とします。
両極板には正負の電荷が蓄積されているので、引力を及ぼし合うということは想像できます。

 

 その力の大きさを求めます。

 

 

 最初に間違った考え方を示します。

 

 「極板に蓄えられている電荷量は\(Q\)で、それが強さ\(E\)の電場の中に置かれているので、+側の電極にはたらく力\(F\)は、\(F=QE\)」とするのは、誤りです。

 

 なぜ誤りなのか。

 

 図3-5では、\(E\)の強さの電場に電荷\(q\)を置いたとき、\(qE\)の大きさの静電気力を受けました。
図3-8はどうでしょう。 電荷\(+Q、-Q\)は電場\(E\)をつくることに貢献しています。
図3-5では電荷\(q\)は電場を作ることに貢献していません。

 

 実は、電荷は自分自身が作る電場からは力を受けません。
敢えてその理由を上げれば、電荷自身が作る電場は対称であるため、仮にその電場から力を受けるとしても、受ける力も対称となり、その合力は\(0\)となるからです。

 

 図3-8を、\(+Q\)が作る電場と\(-Q\)が作る電場にわけて考え、そのふたつを重ね合わせてみましょう。

 

電場についても、電位についても、重ね合わせという考えができます。
電場の場合、ふたつの電荷がつくる電場は、それぞれの電荷が単独でつくる電場ベクトルを合成して得られます。
電位については、ふたつの電荷があるとき、ある点の電位は、それぞれの電荷が単独にあるときの電位を足し合わせて得られます。

 

コンデンサー3_8_電位、電圧、極板にはたらく力(8)

 

 +側の極板の電荷\(+Q\)が単独でつくる電気力線を図3-9に示しました。

 

 \(+Q\)が単独に存在する場合、その対称性から電気力線は左右に分かれて出ます。
電気力線が入る負電荷は無限遠にあると考えます。

 

 極板内の電荷の分布が図3-8と異なるのは、導体(極板)の内部には電場(したがって、電気力線)は存在せず、電荷は極板の表面のみに存在するから、図3-9では表面の電荷は対象に配置します。一方、図3-8では+電荷はコンデンサーの-側極板の-電荷から力を受け、極板間側に電荷が分布します。
電荷の分布は極板の外についての議論にはほとんど影響しないので、この点について深く考えないことにします。

 

 また、極板の上下の端では、電気力線が図3-9とは異なり乱れるはずですが、これについても無視します。

 

 電気力線は両側に分かれますが、電荷の量に変化はないので電気力線の総数は同じ、つまり電気力線の密度は半分に減るので電場の強さも半分の\(\frac{E}{2}\)となります。

 

コンデンサー3_9_電位、電圧、極板にはたらく力(9)

 

 

 次に-側電極の電荷\(-Q\)のつくる電気力線を図3-10に示します。
 こちらの電気力線は青色で表します。
 \(-Q\)が単独に存在する場合、その対称性から電気力線は左右から入ります。
電気力線が出る正電荷は無限遠にあると考えます。

 

 図3-9と図3-10で、極板間では電気力線の向き(したがって、電場の向き)は同じ、極板間の外では逆向きであることに注意しましょう。

 

 また、\(+Q\)の電荷は、図3-9で示される電場から力を受けることがないことが理解できます。
同時に、\(-Q\)の電荷は、図3-10で示される電場から力を受けることがないことも理解できます。

 

 

コンデンサー3_10_電位、電圧、極板にはたらく力(10)

 図3-9と図3-10のふたつの電気力線(したがって、電場)を重ね合わせた状態を図3-11に示します。
それぞれの位置で、ふたつの電場のベクトル和を計算して、重ね合わせた状態(図3-12)が得られます。

 

 極板間ではふたつの電気力線(電場)の向きは同じですから、ふたつの電場の強さを足し合わせて\(\frac{E}{2}+\frac{E}{2}=E\)が得られます。
極板の外側(+側極板の左側と-側極板の右側)では、ふたつの電場の強さは同じで向きが逆ですから、重ね合わせた電場の強さは\(\frac{E}{2}-\frac{E}{2}=0\)となります。

 

 

 

コンデンサー3_11_電位、電圧、極板にはたらく力(11)

 

 以上の事柄を整理すると、

 

・+側の極板の電荷\(Q\)がつくる電場の強さは\(\frac{E}{2}\)で、
 -側の極板の電荷\(-Q\)がつくる電場の強さも\(\frac{E}{2}\)です。

 

・\(+Q\)も\(-Q\)も自分自身が作る電場(強さが\(\frac{E}{2}\))から力を受けません。

 

・\(+Q\)は\(-Q\)の作る電場(強さが\(\frac{E}{2}\))から力を受けます。
 同様に、\(-Q\)は\(+Q\)の作る電場(強さが\(\frac{E}{2}\))から力を受けます。

 結局、+側の極板、-側の極板にはたらく力の大きさ\(F\)は次のように表されます。
\begin{equation} F=\frac{1}{2}QE \tag{3-10} \end{equation}
 係数\(\frac{1}{2}\)を忘れないようにしましょう。

 

 (3-10)式をもとに、極板間距離\(d\)が変わったときに\(F\)が変化するかどうかを検討します。
ただし、\(d\)が変化しても、\(Q\)が変化しないという条件で考えます。

 

 電場の強さ\(E\)は、\(d\)が変化しても、変わりません。
理由は、
 ・電場の強さは電気力線の密度に比例します。
 ・そして電気力線の総本数は電荷量で決まりますから、電荷が一定の条件では電気力線の総本数と密度は変化しません。

 

 以上から、電荷量\(Q\)が変化しなければ、\(d\)が変化しても\(F\)は一定です。

 

 \(Q\)が変化しないという状態は、図3-1において、スイッチ\(S\)を閉じ、コンデンサーに充電したのち、\(S\)を開いた状態です。
\(S\)を開けば、電荷の行き場はなくなりますから、\(Q\)は一定のままとなります。

 

Ⅳ.電気容量

 コンデンサーの寸法および誘電率から電気容量を求める方法について教科書的な内容をまとめています。

 

1.コンデンサーの電気容量を求める式を導きます

 

コンデンサーの両極板間の電界について、「Ⅲ.コンデンサーに関わる電場と電位、および、極板にはたらく力」ではふたつの式が得られました。
 それは、
\begin{eqnarray} E&=&\frac{V}{d} \tag{3-2} \\
E&=&\frac{Q}{\varepsilon S} \tag{3-9}
\end{eqnarray}

 これらの式から、
\begin{eqnarray} \frac{V}{d}&=&\frac{Q}{\varepsilon S} \\
Q&=&\varepsilon\frac{S}{d}V \tag{4-1}
\end{eqnarray}

コンデンサー4_1_電気容量(1)

 (4-1)式と\(Q=CV\)の式を比較すると、
\begin{equation} C=\varepsilon\frac{S}{d} \tag{4-2} \end{equation}
 この式は、コンデンサーの極板の面積が\(S\)、間隔が\(d\)、極板間の物質の誘電率が\(\varepsilon\)のときのコンデンサーの電気容量\(C\)を示しています。(右図4-1を参)

 

 別の言い方をすれば、電気容量\(C\)は極板の面積\(S\)に比例し、極板の間隔\(d\)に反比例します
つまり、極板の面積を2倍に、かつ、電極間隔を半分にすれば、電気容量は4倍になります。

 

 

 真空であれば、真空の誘電率\(\varepsilon_0\)を使って、(4-2)式は、
\begin{equation} C=\varepsilon_0\frac{S}{d} \tag{4-3} \end{equation}
 また、(4-2)式は比誘電率\(\varepsilon_r=\frac{\varepsilon}{\varepsilon_0}\)を用いて、
\begin{equation} C=\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{S}{d} \tag{4-4} \end{equation}

 

 問題により、\(\varepsilon\)を用いる場合と\(\varepsilon_0\varepsilon_r\)を用いる場合がありますから注意が必要です。
\(\varepsilon\)と\(\varepsilon_0\)の単純な文字のミスも多いようです。

 

 

 

 

2.コンデンサーの極板間に誘電体がある場合、誘電分極による電荷を考えます

 

 

 このコンデンサーの電気容量は(4-4)式で与えられます。
誘電体の比誘電率は\(\varepsilon_r\gt 1\)なので、電気容量は極板間が真空の場合に比べて、大きくなります。

 

 この理由を教科書に則して説明します。

 

 コンデンサーの状態として、①コンデンサーの電荷が一定の場合と、②電位差が一定の場合について考えます。
 また、以下の議論では、電場の強さ\(E\)と極板の電荷\(Q\)の関係を表す\(E=\frac{Q}{\varepsilon S}((3-9)式)\)が大事な式です。

 

① 最初は、コンデンサーの電荷が一定の場合です

 

 下図4-2に示すように、スイッチを閉じて十分な時間が経過し、コンデンサーの極板の電位差は\(V\)で、\(Q=CV\)の電荷が蓄えられています。

 

 初期状態で極板間は真空で、誘電率は\(\varepsilon_0\)です。
そのあと、スイッチ\(A\)を開けてから、比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を極板間に挿入します。
スイッチが開いているため、電荷は移動せず、誘電体の挿入の前後で電荷は変化しません。

 

 以下の議論では、コンデンサーの極板の面積を\(S\)、間隔を\(d\)とします。
 挿入前のコンデンサーの容量、極板間の電場の強さ、電位差をそれぞれ、\(C、E、V\)とし、
挿入後のコンデンサーの容量、極板間の電場の強さ、電位差をそれぞれ、\(C'、E'、V'\)とします。

 

 さて、挿入したことで、誘電体のコンデンサーの極板に接する表面には、誘電分極により電荷が現れます。

 

誘電分極について]
 帯電体を近づけると誘電体の電子はわずかにずれます。
 このため、帯電体に近い誘電体表面には帯電体の電荷と異種の電荷が現れ、遠い側の表面には同種の電荷が現れます。
 これが誘電分極です。
 誘電分極による電荷を誘電体から取り出すことはできません。
 したがって、この電荷は、コンデンサーの極板の電荷を減少させることはありません
 (ただし、以下に示すように、極板間の電場の強さを減少させます。)

 

 コンデンサーの+側の極板には電荷\(+Q (\gt 0)\)が蓄えられ、これに接する誘電体の表面には\(-q (\lt 0)\)の電荷が現れます。
-側の極板には電荷\(-Q\)が蓄えられていて、これに接する誘電体の表面には\(+q\)の電荷が現れています。

 

 図4-3に、\(\pm Q\)による電気力線と\(\mp q\)による電気力線が描かれています。
ふたつの電気力線の向きが異なることは、誘電分極の電荷は極板の電荷がつくる電場を弱めることを意味します

 

 図4-4は図4-3で打ち消される電気力線を省いて、実際に観察される電気力線を描いています。
図4-2に比べて、電気力線の数(したがって電気力線の密度)が減っていて、電場が弱くなったことがわかります。

 

 図3-7のときのように、+側の極板の周りに閉曲面を設定して、+側の極板近傍の総電荷は\((+Q)+(-q)=Q-q\)で\(+Q\)よりも減っていることから、閉曲面を貫く電気力線の数は少なくなり、このため、電場は弱くなっていると、考えることができます。

 

さて、電場\(E\)が弱くなり、\(V'=Ed\)((3-1)式)ですから、極板間の電位差\(V'\)も減少していることがわかります。 
そして、\(Q=C'V'\)で、\(Q\)は変化せず、\(V\)は\(V'\)に減少したのですから、\(C\)は\(C'\)に増加することになります。

 

 では、誘電体を挿入したときの電位差を\(V'\)として、\(C'=\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{S}{d}\)がわかっているものとして、\(V'\)と\(E\)を求めてみます。
\begin{eqnarray} Q=CV=\varepsilon_0\frac{S}{d}V \\
C'=\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{S}{d} \tag{4-5} \\
V'=\frac{Q}{C'}=\varepsilon\frac{S}{d}V\times \frac{d}{\varepsilon_0\varepsilon_r S}=\frac{V}{\varepsilon_r} \tag{4-6}  \\
E'=\frac{V'}{d}=\frac{1}{\varepsilon_r}\frac{V}{d}=\frac{1}{\varepsilon_r}E \tag{4-7}
\end{eqnarray}
 つまり、誘電体を挿入することで、容量が\(\varepsilon_r\)倍になります。((4-5)式}
このため、極板間電圧は\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になり、((4-6)式)
極板間の電場の強さも\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になります。((4-7)式)

 

 電荷と電場の強さの関係から、\(E'=\frac{Q}{\varepsilon_0\varepsilon_r S}\)で、
\(-q\)の誘電分極による電荷で電場の強さが変化するわけですから、\(E'\)は\(\frac{Q-q}{\varepsilon_0 S}\)とも書けます。
したがって、
\begin{eqnarray} \frac{Q-q}{\varepsilon_0 S}=\frac{Q}{\varepsilon_0\varepsilon_r S} \tag{4-8} \\
Q-q=\frac{Q}{\varepsilon_r} \\
q=\left(1-\frac{1}{\varepsilon_r}\right)Q \tag{4-9}
\end{eqnarray}

 

コンデンサー4_2_電気容量(2)

 

 

 

②次に、コンデンサーの両極板の電位差が一定の場合について考察します。

 

 初期状態では、図4-5のように、コンデンサーには\(Q\)の電荷が蓄えられていて、極板の電位差は\(V\)です。
この状態で、スイッチ\(A\)を閉じたまま、誘電体を極板間に挿入します。
これで、電位差一定という条件が満たされます。

 

 誘電分極の電荷により、電場の強さが減少すると極板の電位差も下がってしまいますが、コンデンサーは常に起電力\(V\)の電池につながっているので、新たな電荷が電池から力コンデンサーの極板に供給され、それにより極板の電位差が\(V\)に維持されることになります。

 

 ここでの議論では、コンデンサーの極板の面積を\(S\)、間隔を\(d\)とします。
 挿入前のコンデンサーの容量、電荷、極板間の電場の強さ、電位差をそれぞれ、\(C、Q、E、V\)とし、
挿入後のコンデンサーの容量、電荷、極板間の電場の強さをそれぞれ、\(C'、Q'、E'V'\)とします。
 また、誘電分極により+側の極板に接する誘電体表面に現れる電荷を\(-q'(q\gt 0)\)とします。

 

 図4-6では、極板の電荷\(Q''\)は図4-5や図4-3の\(Q\)よりも増加します。
誘電分極の電荷量\(|-q'|\)も図4-3の\(|-q|\)よりも増えています。

 

 では、\(Q'、q'\)を求めます。
 \(E=\frac{V}{d}\)で、誘電体挿入後も\(V\)と\(d\)は一定ですから、\(E''=\frac{V}{d}=E\)です。
このことから、電荷\(+Q\)が作る電場と電荷\(Q'-q'\)が作る電場の強さは等しいとおいて、
\begin{eqnarray} \frac{Q'-q'}{\varepsilon_0 S}=\frac{Q}{\varepsilon_0 S} \tag{4-10} \\
Q=CV=\varepsilon_0\frac{S}{d}V \\
Q'=C'V=\varepsilon_r\varepsilon_0\frac{S}{d}V=\varepsilon_r Q \tag{4-11} \\
(4-10)より、q'=Q'-Q=(\epsilon_r-1)\varepsilon_0\frac{S}{d}V=(\varepsilon_r-1)Q \tag{4-12} \\ \\
\end{eqnarray}

コンデンサー4_5_電気容量(5)

 

 

 

 

 

3.コンデンサーの電極間に導体がある場合の電気容量を求めます

 

コンデンサー4_8_電気容量(8)

 

 

 最初に、準備として、直列接続した2つのコンデンサーの合成容量を求めます。

 

 図4-8(a)で、電気容量が\(C_1\)と\(C_2\)のコンデンサーが直列に接続されています。
 これを図4-8(b)に示す等価なひとつのコンデンサーとして表したときにその電気容量\(C\)を求めます。

 

 図4-8(a)と図4-8(b)が外から同じように見えるということは、同じ電位差を与えたときにコンデンサーに同じ電荷が蓄えられるということです。

 

 そこで、図4-8に示すように、同じ電位差\(V\)が与えられたときには、同じ電荷\(Q\)が蓄えられるとして、
(a)(b)それぞれについて、\(V\)を\(Q\)で表す式を立てます。

 

 

 

\begin{eqnarray}  (a)の場合、V&=&\frac{Q}{C_1}+\frac{Q}{C_2} \tag{4-13} \\
(b)の場合、V&=&\frac{Q}{C} \tag{4-14} \\
これより、\frac{Q}{C}&=&\frac{Q}{C_1}+\frac{Q}{C_2}   \\
\frac{1}{C}&=&\frac{1}{C_1}+\frac{1}{C_2}   \tag{4-15}
\end{eqnarray}

 

 

 

 

コンデンサー4_9_電気容量(9)

 図4-8の特別な場合として、3つのコンデンサーの極板の面積が等しい場合を考えてみます。
 これを図4-9に示しました。
どのコンデンサーも極板の面積は\(S\)ですが、極板間距離は\(C_1、C_2、C\)それぞれ、\(d_1、d_2、d\)です。
極板間の物質の誘電率を\(\varepsilon\)として、コンデンサーの形状から電気容量を求め、これらを(4-15)式に代入します。

 

\begin{eqnarray} C_1&=&\varepsilon\frac{S}{d_1} \\
C_2&=&\varepsilon\frac{S}{d_2} \\
C&=&\varepsilon\frac{S}{d} \\
\frac{1}{\varepsilon\frac{S}{d}}&=&\frac{1}{\varepsilon\frac{S}{d_1}}+\frac{1}{\varepsilon\frac{S}{d_2}}  \\
d&=&d_1+d_2 \tag{4-16}
\end{eqnarray}

 

 (4-16)式はなかなか示唆に富んだ式です。
つまり、電極面積の同じコンデンサーが直列に接続されている場合、その合成容量は\(\varepsilon\frac{S}{d_1+d_2}\)として求めることができるということです。

 

 

 

 

コンデンサー4_10_電気容量(10)

 

 準備が終わったので、図4-10に示すコンデンサーの電気容量\(C\)を求めます

 

 極板は1辺の長さが\(L\)の正方形で、面積は\(S=L^2\)、極板間距離は\(d\)です。

 

 その極板間に厚みが\(d_2\)で、面積と形状が極板と同じ導体の板が挿入されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンデンサー4_11_電気容量(11)

 

 さて、最初に、導体がなく、極板間が真空(誘電率は\(\varepsilon_0\))である場合を考えます。

 

 コンデンサーに電位差\(V\)(\(V\gt 0\)、上側極板が+)をかけると、図4-11のように電荷が蓄積されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンデンサー4_12_電気容量(12)

 

 電位差\(V\)を維持したまま、極板間に導体板を挿入すると、静電誘導により、コンデンサーの電荷がつくる電場から力を受けて、導体内部の自由電子が移動することから、+側の極板に近い導体の表面には負電荷が、その反対側には正電荷が現れます。

 

 このあと説明するように、導体板を挿入することで電気容量が増えるため、極板の電荷量も増えます。

 

 

 この静電誘導により現れた電荷がつくる電場はコンデンサーの極板の電荷がつくる電場を打ち消します。
そして、導体内部には電場はなくなり、導体はどの部分も同じ電位になります。

 

 コンデンサーの+側の極板の+電荷から出たすべての電気力線は、導体表面の-電荷に入ります。

 

 

 

 

 

 

コンデンサー4_13_電気容量(13)

 

 図4-13は、仮に、導体内部に極板の電荷がつくる電場が残った場合を説明しています。

 

 導体内部には自由に動くことのできる自由電子が存在するため、導体内部の電場から力を受けて、自由電子が導体の+側の極板に近い側の導体表面に移動します。

 

 図4-13に①をつけた電子が移動中の電子ですが、もちろん、これはあくまでも概念的なもので、実際に1個の電子が①のように移動するわけではありません。

 

 自由電子の移動により、極板の電荷がつくる電場を打ち消す(導体の表面電荷がつくる)電場が強くなり、導体内部の電場を弱めます。
結局、導体内部に電場がなくなるように自由電子が再配置することになります。

 

 

 

 さて、コンデンサーの+側極板から-側極板までの各部分の電位を示したのが、図4-14です。
導体はどの部分も同じ電位になっています。
そして、電位の変化は、図4-14で電場の存在する部分(+側極板と導体の間、導体と-側極板の間)で起こります。
(これは、\(V=Ed\)の式からもわかります。)
極板にかけた電圧(大きさ\(V\))はこのふたつの部分にかかることになります。

 

コンデンサー4_14_電気容量(14)

 

 以上より、図4-10の導体板を挿入したコンデンサーの電気容量は図4-15のようにして求められることがわかります。

 

 最初に、導体板はどこも同電位ですから、図4-15(b)のように、導体板をふたつのコンデンサーをつなぐ導線のようにみなすことができます。

 

そして、図4-9、あるいは、(4-16)式で示したように、(b)は、ふたつのコンデンサーの極板間隔を足し合わせたひとつのコンデンサー(c)と同じ電気容量を持つことがわかります。

 

 

 

 また、図4-15についての考え方から、(導体板の厚みは一定で、極板に平行という条件のもと)導体がもとのコンデンサーのどの位置にあっても電気容量の値は同じであると言えます。

コンデンサー4_15_電気容量(15)

 

 

 

 

 下図4-16では、図4-15の各極板に蓄積する電荷を表してみました。

コンデンサー4_16_電気容量(16)

 

 

 

 

4.コンデンサーの電極間に誘電体がある場合の電気容量を求めます

 

 

コンデンサー4_17_電気容量(17)

 

 準備として、図4-16に示す3個のコンデンサーが直列に接続された場合の合成抵抗\(C\)を求めます。

 

 \(C_1\)と\(C_2\)の合成容量を\(C'\)とすれば、
\begin{equation} \frac{1}{C'}=\frac{1}{C_1}+ \frac{1}{C_2} \tag{4-17} \end{equation}
 これより、
\begin{eqnarray} \frac{1}{C}&=&\frac{1}{C'}+\frac{1}{C_3} \\
&=&\frac{1}{C_1}+ \frac{1}{C_2}+\frac{1}{C_3} \tag{4-18}
\end{eqnarray}
となります。
 また、(4-18)式で、\(C_1、C_2、C_3\)の項を入れ替えても\(C\)の値は変わりませんから、図4-16の3つのコンデンサーの接続順序を変えても合成容量は変化しません。

 

 

 

 

 では、コンデンサーの電極間に誘電体がある場合の電気容量を考えます。

 

 

 

 

 

コンデンサー4_18_電気容量(18)

 

 右図4-18で極板は1辺の長さが\(L\)の正方形です。

 

 極板間距離は\(d\)で、そこに面積が\(L\times \frac{L}{2}\)で厚みが\(d_2\)の誘電体が極板のちょうど半分の面積に収まるように挿入されています。
上側極板との間隔が\(d_1\)、下側極板との間隔が\(d_3\)です。

 

 誘電体の比誘電率を\(\varepsilon_r\)、それ以外の場所の誘電率を\(\varepsilon_0\)として、このコンデンサーの電気容量を求めます。

 

 求め方を示すと、図4-19~図4-20のようになります。

 

 図4-19(a)は、誘電体がない部分とある部分のふたつのコンデンサーが並列に接続されたもの(図(b))と考えます。
図(b)の左側のコンデンサーの電気容量は\(\varepsilon_0\frac{L^2}{2d}\)です。
右側のコンデンサーはさらに図(c)のように、誘電体の表面部分にあらたな電極があるものと考えることができて、誘電率\(\varepsilon_0\)で極板間隔が\(d_1\)のコンデンサーと誘電体が間隔\(d_2\)の極板間を埋めているコンデンサーと誘電率\(\varepsilon_0\)で極板間隔が\(d_3\)のコンデンサーの3つが直列になったものと考えることができます。

 

 3つのコンデンサーが並ぶ順序を変えても合成容量は変わらないので、図4-20(b)のようにコンデンサーの配置を変えて、さらに上のふたつのコンデンサーを極板間隔がふたつのコンデンサーの極板間隔の和である、ひとつのコンデンサーに置き換えて図(e)のようになります。

 

 したがって、図4-18で表されるコンデンサーの合成容量\(C\)は、
\begin{eqnarray} C&=&\varepsilon_0\frac{L^2}{2d}+\frac{1}{\frac{1}{\varepsilon_0\frac{L^2}{2(d_1+d_3)} }+\frac{1}{\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{L^2}{2d_2} }} \\
&=&\varepsilon_0\frac{L^2}{2d}+\frac{1}{\frac{2(d_1+d_3)}{\varepsilon_0 L^2} +\frac{2d_2}{\varepsilon_0\varepsilon_r L^2 }} \\
&=&\varepsilon_0\frac{L^2}{2d}+\frac{1}{\frac{2\varepsilon_r(d_1+d_3)+2d_2}{\varepsilon_0\varepsilon_r L^2} } \\
&=&\varepsilon_0\frac{L^2}{2d}+\frac{\varepsilon_0\varepsilon_r L^2}{2\varepsilon_r(d_1+d_3)+2d_2} \tag{4-19}
\end{eqnarray}

 

コンデンサー4_19_電気容量(19)

 

 

 

コンデンサー4_20_電気容量(20)

 

 図4-20(a)の右側の誘電体を含むコンデンサーについて、合成容量を求めるためにコンデンサーを変形したことに沿って電気力線と電荷を表すと図4-21のようになります。

 

 図4-21の(a)~(d)はいずれも電気容量は同じですから、(a)~(d)のコンデンサーの電位差も電荷もすべて同じ大きさです。

 

 

 

コンデンサー4_21_電気容量(21)

 

 下図4-22には、図4-21(a)のコンデンサーの極板間の電位の変化を示しました。
図4-14の導体板の場合には導体内部には電場がなく、導体のどこも同じ電位でしたが、誘電体ではこれと異なります。
誘電体内部には自由に動ける電荷がありません。
したがって、誘電体内部の電場をすべて打ち消すような電荷の再配置ができず、誘電体内部の電場は弱められますが、残ります。
このため、誘電体内部でも図4-22のように電位が変化します。

 

 

コンデンサー4_22_電気容量(22)

 

Ⅴ.静電エネルギー

 

 静電エネルギーの導出過程を説明し、ジュール熱との関係を考察します。

 

 図5-1で、\(S_2\)を開いたまま\(S_1\)を閉じます。
 最初、コンデンサーの\(C\)に電荷は蓄えられていないとします。
十分な時間がたったあと(つまり、\(C\)に\(CV\)の電荷が蓄えられたあと)\(S_1\)を開いて\(S_2\)を閉じます。
すると、このとき、コンデンサーに繋がった電球が短時間の間点灯します。

 

コンデンサー5_1_静電エネルギー(1)

 

 電球が点灯することは、電球自身が光エネルギーや熱エネルギーを放出するということです。
このエネルギーはコンデンサーからもたらされたはずです。
 コンデンサーにためられたこのエネルギーが静電エネルギーです。

 

 

 静電エネルギー\(U\)の大きさは、次のように表されます。
\begin{equation} U=\frac{1}{2}QV \tag{5-1} \end{equation}
ここで、\(V\)はコンデンサーの両極板の電位差、\(Q\)はコンデンサーに蓄積された電荷です。
\begin{equation} Q=CV \tag{5-2} \end{equation}
の関係を用いれば、(5-1)式は次のように変形できます。
\begin{eqnarray} U&=&\frac{1}{2}QV \tag{5-1} \\
&=&\frac{1}{2}CV^2 \tag{5-3} \\
&=&\frac{Q^2}{2C} \tag{5-4}
\end{eqnarray}

 

(5-1)(5-3)(5-4)式はすべて覚えておくのが望ましいです。
いずれの式でも係数が\(\frac{1}{2}\)です。
\(\frac{1}{2}\)を忘れないようにしましょう。
状況に応じて使い分けることで計算時間が短縮できます。

 

 覚えきれない場合は、次のふたつの式、(5-2)(5-3)式を覚えておき、状況に応じて(5-1)(5-4)式を導いて使います。
\begin{eqnarray} Q&=&CV \tag{5-2} \\
U&=&\frac{1}{2}CV^2 \tag{5-3}
\end{eqnarray}
(5-3)式を推すのは、\(\frac{1}{2}mv^2、\frac{1}{2}kx^2、\frac{1}{2}LI^2\)と式の形が同じで、関連して覚えることができるからです。

 

 

 

 次に、図5-2に基づいて、(5-4)式を導いてみましょう。

 

コンデンサー5_2_静電エネルギー(2)

 

 コンデンサーの静電エネルギーは、電池がする仕事から与えられます。
 例えば、起電力\(V\)の電池が\(Q\)の電荷を送り出せば(\(+Q\)が電池の+極から出て、\(+Q\)が-極に戻る)、電池がした仕事は\(QV\)です。
この仕事は、抵抗\(R\)で発生するジュール熱とコンデンサーに蓄積される静電エネルギーに変わります。

 

 [電池がした仕事]=[ジュール熱(抵抗\(R\))]+[静電エネルギー(コンデンサー\(C\))]    (5-5) 

 

 このままでは、[ジュール熱(抵抗\(R\))]と[静電エネルギー(コンデンサー\(C\))]を分離できず、静電エネルギーを求めることはできません。
そこで、ジュール熱が\(0\)になるように電池をコントロールします。

 

 ジュール熱は、電流の強さを\(I\)として\(I^2R\)で表されます。
つまり、\(I\)を極限まで小さくすれば、上の状況が作れます。
そのためには、電池の電圧を\(0\)から非常にゆっくり(無限の時間をかけて)\(V\)まで上げます。

 

 このときの電池がする仕事は、図5-3から求めることができます。
電圧\(V\)の電池が\(\Delta Q\)の電荷を動かしたときに電池がする仕事は\(V\Delta Q\)です。
これは図5-3で、青のハッチング部分の面積を表します。

 

 電池の電圧を\(0\)から\(V\)まで変化させると、電荷は\(0\)から\(Q(=CV)\)まで変化します。

コンデンサー5_3_静電エネルギー(3)

 したがって、コンデンサーに\(Q\)の電荷を蓄えるために電池がする仕事\(U\)は、
\begin{eqnarray} U&=&\int_0^QVdQ \tag{5-6} \\
&=&\int_0^Q\frac{Q}{C}dQ \tag{5-7} \\
&=&\frac{Q^2}{2C} \tag{5-4}
\end{eqnarray}
となります。
 (5-6)式は、図5-3の黄色の直角三角形の面積を示していますから、図5-3から\(U=\frac{1}{2}QV\)であることがわかります。
注) 図5-1や図5-2で\(V\)は電池の起電力を表していますが、時間が経過した時点でコンデンサーの電圧も\(V\)となるわけですから、(5-1)~(5-4)式の\(V\)はコンデンサーの両極板間の電位差(電圧)を表しています。

 

 

 

 さて、もう一度図5-1に戻り、(5-5)式について考えてみます。

 

 図5-1では、電池の起電力は\(V\)で一定値です。
 したがって、スイッチ\(S_1\)を閉じてから、十分に時間がたって、\(Q=CV\)の電荷がコンデンサーにたまるまでに、電池がした仕事は\(QV\)です。
十分に時間が経つ間にコンデンサーに蓄えられた静電エネルギーは\(\frac{1}{2}QV\)ですから、この時間に抵抗\(R\)で発生したジュール熱\(P\)は、(5-5)式を用いて、
\begin{equation} P=QV-\frac{1}{2}QV=\frac{1}{2}QV \tag{5-8} \end{equation}
です。
 抵抗で消費する単位時間当たりのジュール熱が\(I^2R\)の形で表されることを考えると、上式(5-8)に\(R\)が含まれないのは不思議な感じです。
\(R\)が含まれないのですから、\(R\)がいくつであっても、その値には無関係にジュール熱は一定だということです。

 

 ところで、この回路に流れる電流\(I(t)\)の時間変化は、「Ⅰ.コンデンサーと抵抗の直列回路」で導いた(1-11)式で表されます。
\begin{equation} I(t)=\frac{V}{R}e^{-\frac{t}{CR}} \tag{1-11} \end{equation}
ただし、(1-11)式の文字\(E\)を図5-1に合わせて\(V\)に置き換えています。

 

 では、この電流が流れる抵抗\(R\)で\(t=0\)から十分な時間(\(t\to \infty\))の間に発生するジュール熱\(P'\)を計算してみます。
それには、単位時間当たりのジュール熱\(RI^2(t)\)を\(t=0\)から\(t\to\infty\)まで積分すればよいわけですから、
\begin{eqnarray} P'&=&\int_0^\infty RI^2(t)dt \tag{5-9} \\
&=&\int_0^\infty R\left(\frac{V}{R}e^{-\frac{t}{CR}}\right)^2dt \\
&=&R\frac{V^2}{R^2}\int_0^\infty e^{-\frac{2t}{CR}}dt \\
&=&\frac{V^2}{R}\left[-\frac{CR}{2}e^{-\frac{2t}{CR}}\right]_0^\infty \\
&=&\frac{V^2}{R}\left(-\frac{CR}{2}\right)(0-1) \\
&=&\frac{1}{2}CV^2=\frac{1}{2}QV
\end{eqnarray}
 \(RI^2(t)\)を元に計算した結果は、(5-8)式と一致しました。

 

 やはり、ジュール熱は抵抗値\(R\)に依存しないことが示されました。

 

コンデンサー1_7_CとRの直列回路(7)

 これがどういうことか、図1-7を元に考えます。
 抵抗値が下がると、電流が流れる時間は短くなりますが、より強い電流が流れることがわかります。
このため、抵抗値が変化しても、ジュール熱の大きさは同じとなるようです。
注) ジュール熱を求めることは、図1-7のグラフを2乗して\(R\)を掛けたグラフと\(x\)軸との間の面積と求めることです。

 

 抵抗値が\(0\)のときにも上のことは成り立つのでしょうか?
\(R=0\)の場合は、\(t=0\)で、\(I(t)\to \infty\)ですから、極限でしか議論できません。
つまり、\(R\)がどんなに\(0\)に近い値でも、ジュール熱は(5-8)式で与えられるということです。

 

 実際の導線の抵抗値は非常に小さいのですが、\(0\)ではありません。
ですから、実際の回路で\(R=0\)の場合のジュール熱について悩む必要はありません。

 

 

 

 

 では、ジュール熱を求める問題を考えます。

 

コンデンサー5-4_静電エネルギー(4)

 右図5-4で、左右ふたつのコンデンサーの電気容量はそれぞれ\(C_1、C_2\)で、初期状態では、2つのコンデンサーに電荷は蓄えられていません。

 

 

 最初に\(S_2\)を開いた状態で\(S_1\)を閉じます。
十分に時間が経過して左側のコンデンサーに電荷\(Q_0=C_1V\)が蓄えられた後に、スイッチ\(S_1\)を開きます。

 

 問題は、次に\(S_2\)を閉じてから十分に時間が経過する間に抵抗\(R_2\)で発生するジュール熱を求めることです。

 

 今まで検討してきたように、電流の時間変化の式\(I(t)\)を求めて、\(R_2I^2(t)\)を計算するのは非常に面倒です。
そこで、(5-5)式と同様の考えかたを用います。
[\(S_2\)を閉じる前の左側のコンデンサーの静電エネルギー]=[\(R_2\)でのジュール熱]+[\(S_2\)を閉じた後の2つのコンデンサーの静電エネルギー]

 

 つまり、スイッチ\(S_2\)を閉じる前と、閉じて十分時間が経ったあととの静電エネルギーの減少量がジュール熱に相当します。
そして、静電エネルギーを求めるには、電荷を求めるか\(\left(\frac{Q^2}{2C}\right)\)、コンデンサーにかかる電圧(電位差)\(\left(\frac{1}{2}CV^2\right)\)を求めることになります。
もちろん、どちらかが求まれば、\(Q=CV\)でもう一方も求めることができます。

 

 

 次に、①~③の解法を挙げます。
①②は、電荷の保存の式と回路の電圧(電圧降下)に関する式を用いるもので、オーソドックな方法です。
①と②では、最初に設定する未知数が、①では電荷、②では電圧という違いがあります。
③は合成容量を利用する方法で、静電エネルギーの減少量だけを求めるのであれば、有効な方法です。

 

 

①電荷を未知数とします

コンデンサー5-5_静電エネルギー(5)

 

 右の図5-5のように、スイッチ\(S_2\)を閉じて十分に時間が経ったあと、\(C_1\)のコンデンサーに蓄えられる電荷を\(Q_1\)、\(C_2\)のコンデンサーに蓄えられる電荷を\(Q_2\)とします。
\(Q_1\gt 0\)、\(Q_2\gt 0\)とし、どちらも図の上側が+であるとします。
したがって、図5-5に示すように、各コンデンサーの上側の極板に+の電荷、下側の極板に-の電荷が蓄えられていると仮定します。

 

 最初に電荷の保存の式を立てます。
赤の破線で囲んだ領域Aに注目します。
\(S_2\)を閉じる前には、\(C_1\)には\(Q_0=C_1V\)電荷が蓄積されていますが、\(C_2\)の電荷は\(0\)です。
スイッチ\(S_2\)を閉じることにより、\(Q_0\)の電荷が\(Q_1\)と\(Q_2\)に分かれます。
もとの電荷\(Q_0\)はこのほかに移動できる場所がありませんから、次の電荷保存の式が成り立ちます。
\begin{equation} Q_0=Q_1+Q_2 \tag{5-10} \end{equation}

 

 次に、\(C_1\)と\(C_2\)の電圧は等しいですから、
\begin{equation} \frac{Q_1}{C_1}=\frac{Q_2}{C_2} \tag{5-11} \end{equation}
となります。

 

 キルヒホッフの第2法則
    「回路中の一回りの閉じた経路について、起電力の和=電圧降下の和」を利用するのであれば、
図5-5の右図には起電力はなく、十分に時間が経過したあとでは電流が流れていないので抵抗\(R\)による電圧降下はなく、また、一回りの閉じた経路に沿って電圧降下の和を取ると、\(C_1\)か\(C_2\)のどちらかの電圧降下は負となことに注意して、次のように立式できます。
\begin{equation} 0=\frac{Q_1}{C_1}-\frac{Q_2}{C_2} \tag{5-12} \end{equation}
この式は(5-11)式と等価です。

 

 では、(5-10)(5-11)式から\(Q_1\)、\(Q_2\)を求めます。
(5-11)式から、\(Q_2=\frac{C_2}{C_1}Q_1\)、これを(5-10)式に代入すると、
\begin{eqnarray} Q_0&=&Q_1\left(1+\frac{C_2}{C_1}\right)=\frac{C_1+C_2}{C_1}Q_1 \\
Q_1&=&\frac{C_1Q_0}{C_1+C_2}=\frac{C_1^2V}{C_1+C_2} \\
これより、Q_2&=&\frac{C_1C_2V}{C_1+C_2}
\end{eqnarray}

 

 スイッチ\(S_2\)を閉じる前のふたつのコンデンサーからなる系の静電エネルギーを\(U_1\)、閉じて十分な時間が経過したあとの系の静電エネルギーを\(U_2\)とすると、
\begin{eqnarray} U_1&=&\frac{Q_0^2}{2C_1}+\frac{0^2}{2C_2}=\frac{Q_0^2}{2C_1}=\frac{C_1V^2}{2} \\
U_2&=&\frac{Q_1^2}{2C_1}+\frac{Q_2^2}{2C_2}=\frac{C_1^3V^2}{2(C_1+C_2)^2}+\frac{C_1^2C_2V^2}{2(C_1+C_2)^2} \\
[ジュール熱]&=&U_1-U_2=\frac{C_1V^2}{2}-\frac{C_1^3V^2}{2(C_1+C_2)^2}-\frac{C_1^2C_2V^2}{2(C_1+C_2)^2} \\
&=&\frac{C_1(C_1+C_2)^2V^2-C_1^3V^2-C_1^2C_2V^2}{2(C_1+C_2)^2} \\
&=&\frac{C_1^3V^2+2C_1^2C_2V^2+C_1C_2^2V^2-C_1^3V^2-C_1^2C_2V^2}{2(C_1+C_2)^2} \\
&=&\frac{C_1^2C_2V^2+C_1C_2^2V^2}{2(C_1+C_2)^2} \\
&=&\frac{C_1C_2V^2}{2(C_1+C_2)} \tag{5-13} \\
\end{eqnarray}

 

 

 

②電圧を未知数とします

コンデンサー5-6_静電エネルギー(6)

 では、次にコンデンサーの電圧を\(V'\)として式を立ててみます。
コンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)の電圧は同じですから、未知数は1個で済みます。
つまり、未知数を\(V'\)とすることは、それだけで(5-11)式が成り立つという条件を満たしていることになります。

 

 (5-10)式に相当する電荷保存の式を\(V'\)を使って表すと、
\begin{eqnarray} Q_0=C_1V&=&C_1V'+C_2V' \tag{5-14} \\
V'&=&\frac{C_1V}{C_1+C_2} \tag{5-15} \\
これより、[ジュール熱]&=&U_1-U_2=\frac{C_1V^2}{2}-\frac{C_1V'^2}{2}-\frac{C_2V'^2}{2} \\
&=&\frac{C_1(C_1+C_2)^2V^2-C_1^3V^2-C_1^2C_2V^2}{2(C_1+C_2)^2} \\
&=&\frac{C_1C_2V^2}{2(C_1+C_2)} \\
\end{eqnarray}
(5-13)式と同じ答えになりました。
 この問題では電圧を未知数とすることで方程式がひとつで済みました。

 

 

 

③合成容量を利用します

 

コンデンサー5-7_静電エネルギー(7)

 上図5-7に示すように、最初\(C_1\)に蓄えられていた電荷\(Q_0\)がふたつのコンデンサーに分配されるわけですが、これは、\(C_1\)と\(C_2\)の合成容量に\(Q_0\)が蓄えられていると考えることができます。

 

 この考えによれば、個々のコンデンサーに蓄えられる電荷\(Q_1、Q_2\)を求める必要がありません。
\(C_1\)と\(C_2\)の合成容量を\(C\)とすると、
\begin{eqnarray} C&=&C_1+C_2 \tag{5-16} \\
これより、U_2&=&\frac{Q_0^2}{2C}=\frac{C_1^2V^2}{2(C_1+C_2)} \tag{5-17} \\
[ジュール熱]&=&U_1-U_2=\frac{C_1^2V^2}{2C_1}-\frac{C_1^2V^2}{2(C_1+C_2)} \\
&=&\frac{C_1(C_1+C_2)V^2-C_1^2V^2}{2(C_1+C_2)} \\
&=&\frac{C_1C_2V^2}{2(C_1+C_2)}
\end{eqnarray}
 やはり、(5-13)式と同じ答えになりました。
 特に\(Q_1やQ_2\)を求める必要がないという場合には、この方法を用いれば、計算量が少なくてすみます。

Ⅵ.コンデンサーが導体や誘電体を引き込む力を考える

 コンデンサーの両極板間に導体板や誘電体板を挿入する場合にそれらにはたらく静電力の大きさを求めます。
 これらの力を求めるため、外力がする仕事、静電エネルギーの変化、電池がする仕事、ジュール熱、運動エネルギーの変化、および、それらの間の関係について考察します。
 コンデンサーの電荷が一定の場合と、電位差が一定の場合に分け、外力のする仕事と回路のエネルギーの収支から力の大きさを求めます。

 

 

 「Ⅲ.コンデンサーに関わる電場と電位、および、極板にはたらく力」で、コンデンサーの両極板が及ぼし合う力について考察しました。
ここでは、それも含めて、コンデンサーの極板間に挿入された導体板や誘電体にはたらく力を考えます。

 

 後に具体例を示して詳しく説明しますが、ここでは基本的な考え方を述べておきます。

 

A.コンデンサーの両極板には異種の電荷が蓄えられるので両極板は引き合う向きに力がはたらきます。
また、導電版でも誘電体でもコンデンサーの+極板に近い側には-の電荷が現れますから、力は引き込む向きにはたらきます。

B.コンデンサーが帯電している場合、上記の力がはたらきますから、それを妨げる力がなければ、電極あるいは、導電板、誘電体板は静電気力の向きに動きます。
そうすると運動エネルギーが変化します。
運動エネルギーの変化まで考慮するのは困難ですから、静電気力と同じ大きさの外力が導電版や誘電体板にはたらくと想定し、物体をきわめてゆっくり動かすことにします。
(あるいは等速度運動をすると考えます。)
こうすれば、極板、導電板や誘電体板の運動エネルギーは変化しないはずです。

C.極板、導電板や誘電体板が移動すると、コンデンサーの電気容量が変化します。
コンデンサーに蓄えられた電荷が一定という条件ならば、電荷の移動がないため、ジュール熱は発生しません。
注意するのは、コンデンサーにかかる電圧が一定の場合です。
この場合、電気容量が変化することで、電荷が移動します。
したがって、ジュール熱が発生すると考えるかもしれませんが、B.で考察した外力によって、きわめてゆっくり動かすことにすれば、単位時間当たりの電荷の移動(すなわち電流)もジュール熱が発生しないと見なすことができるほどにきわめて少なくすることができるはずです。
ただし、コンデンサーにかかる電圧が一定の場合には、移動する電荷は電池から供給されるわけですから、電池のする仕事を考えなければなりません。

D.外力をはたらかせて、極板、導電板や誘電体板を動かすわけですから、外力は系に対して仕事をします。
外力の大きさを\(F\)として、力の向きに\(\Delta x\)だけ移動させたとすると、外力のする仕事は\(F\Delta x\)と表されます。
\(F\)が一定ならば外力のする仕事は\(F\Delta x\)、\(F\)が一定でない場合も\(F\)が一定とみなすことができる程度に\(\Delta x\)が小さいと考えることで、外力のする仕事は\(F\Delta x\)と考えることができます。

E.「外力がする仕事」と、「静電エネルギーの変化、電池がする仕事、ジュール熱、運動エネルギーの変化」の関係を考えます。
(a)コンデンサーに蓄えられた電荷が一定という条件ならば、「外力がする仕事\(F\Delta x\)」=「静電エネルギーの変化」です。
「電池がする仕事」=「ジュール熱」=「運動エネルギーの変化」=\(0\)です。
(b)コンデンサーにかかる電圧が一定という条件ならば、「外力がする仕事\(F\Delta x\)」+「電池のする仕事」=「静電エネルギーの変化」です。
「ジュール熱」=「運動エネルギーの変化」=\(0\)です。

 

 仕事とエネルギーの関係を下図6-1にまとめました。
 外力と電池が仕事をして、その結果が静電エネルギーの変化、運動エネルギーの変化、ジュール熱の発生が生じます。
ここで、外力を極板等にはたらく力と大きさが同じで向きが逆、電極等の移動は非常にゆっくりであると設定することで、運動エネルギーの変化とジュール熱の発生を\(0\)としています。
また、(a)電荷が一定の条件では、電池がする仕事は\(0\)です。
 なお、(3-5)(3-6)式に関連して説明したように、極板や導電板や誘電体板にはたらく静電気力がする仕事を考える必要はありません。

 

コンデンサー5-8_静電エネルギー(8)

F.「電池のする仕事」「静電エネルギーの変化」を、\(\Delta x\)を使って表し、外力\(F\)を求めます。
極板、導電板、誘電体板にはたらく力は外力と同じ大きさで向きが逆です。

 

 

 

 

 この章で考察する内容についてまとめると下の表のようになります。

 

力は3種類です。 ①極板間にはたらく力②挿入した導体板にはたらく力③挿入した誘電体板にはたらく力、です。
 この力を求めるにあたって、ふたつの前提条件があります。
 ひとつは、(a)電荷一定の場合、もうひとつは、(b)電圧一定の場合です。
前者はコンデンサーにつながる導線が切断されて(開いて)いる場合、後者は起電力\(V\)の電池がつながっている場合に相当します。

 

 力を考察する上でのふたつの条件の違いは、
・電荷一定の場合、電池は仕事をしない  ・電圧一定の場合、電池は仕事をする、 です。

条件 ①電極が及ぼしあう力

    極板間の引力

②挿入した導体にはたらく力 ③挿入した誘電体にはたらく力
(a)電荷Qが一定

(a)-①

Ⅲで別解を紹介済み

 

近似の必要なし
極板間隔依存性なし

(a)-②

\(F\Delta x\)=「静電エネルギーの変化」
近似が必要

(a)-③

\(F\Delta x\)=「静電エネルギーの変化」
近似が必要

(b)電圧Vが一定

(b)-①

\(F\Delta x\)+「電池のした仕事」=「静電エネルギーの変化」
近似が必要
極板間隔依存性あり

(b)-②

\(F\Delta x\)+「電池のした仕事」=「静電エネルギーの変化」
近似の必要なし

(b)-③

\(F\Delta x\)+「電池のした仕事」=「静電エネルギーの変化」
近似の必要なし

 上表で\(F\Delta x\)は外力のする仕事で、電極が及ぼしあう力・挿入した導体にはたらく力・挿入した誘電体にはたらく力と大きさが同じで向きが逆であることに注意します。

 

 電圧Vが一定の場合、「電池のした仕事」と「静電エネルギーの変化」を\(\Delta x\)を使って表すために近似を用いる場合があります。
近似が必要な場合とは、\(F\Delta x\)以外の式に含まれる\(\Delta x\) が分数式の分母に含まれる場合です。
このあと示す計算において近似が必要なものについては、かなり粗っぽい近似をしています。
実際の問題では近似の方法が指定される場合がありますから、問題の指示にしたがって近似しましょう。

 

 

 このようにを問われる以外に、導電板(誘電体板)を極板間から完全に外に出す(中に入れる)のに必要な外力のする仕事を問われる場合があります。
特に、上表で「近似が必要」な場合に、この形で出題される可能性があります。

 

 このとき、(a)電荷が一定の場合では、
 [導電板(誘電体板)を極板間から完全に外に出す(中に入れる)のに必要な外力のする仕事]=[完全に外に出た(中に入れた)状態の静電エネルギー]-[外に出す(中に入れる)前の状態での静電エネルギー] から求めます。

 

      (b)電圧が一定の場合では、
 [導電板(誘電体板)を極板間から完全に外に出す(中に入れる)のに必要な外力のする仕事]=[完全に外に出た(中に入れた)状態の静電エネルギー]-[外に出す(中に入れる)前の状態での静電エネルギー]-[電池のする仕事] として計算します。

 

 

 

 

以下では、具体的な例題について考えます。
極板や導電板や誘電体板が座標\(x\)にあるときにはたらく力を求めます。

 

 

(a)電荷一定の条件

 

 コンデンサーに蓄えられた電荷が一定という条件ならば、「外力がする仕事\(F\Delta x\)」=「静電エネルギーの変化」です。
なぜならば、「電池がする仕事」=「ジュール熱」=「運動エネルギーの変化」=\(0\)だからです。

 

 そこでこの場合は、外力\(F\)により対象の物体を\(\Delta x\)動かしたときの静電エネルギーの変化量を計算します。

 

(a)-① 電荷一定の条件でコンデンサーの極板間にはたらく力を求める

 

コンデンサー5-9_静電エネルギー(9)

 右図6-2のように極板の面積が\(S\)で極板間距離が\(x\)であるコンデンサーを考えます。
コンデンサーには既に\(Q(Q\gt 0)\)の電荷が蓄えられています。
極板のうち上の極板に注目して、大きさ\(F\)の外力を加えて極板を\(\Delta x\)だけ両極板が近づく向きに動かすことを考えます。
そうすると、極板にはたらく力の大きさは\(F\)で向きは極板が反発しあう方向に仮定したことになります。

 

 下側の極板にも力がはたらきますが、こちらは固定されていると考えることにします。
力学の場合でもそうでしたが、着目している物体にはたらく力を正しく数え上げることが大事です。

 

 極板間距離\(x\)のときの電気容量\(C_x\)は
\begin{equation} C_x=\varepsilon_0 \frac{S}{x} \tag{6-1} \end{equation}
 極板間距離\(x-\Delta x\)のときの電気容量\(C_x\)は
\begin{equation} C_{x-\Delta x}=\varepsilon_0 \frac{S}{x-\Delta x} \tag{6-2} \end{equation}

 

 したがって、\(\Delta x\)移動させることによる静電エネルギーの変化\(\Delta U\)は、
\begin{eqnarray} \Delta U&=&\frac{Q^2}{2C_{x-\Delta x}} -\frac{Q^2}{2C_x} \tag{6-3} \\
&=&\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 \frac{S}{x-\Delta x}}-\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 \frac{S}{x}} \\
&=&\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\left(x-\Delta x-x)\right) \\
&=&-\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\Delta x \tag{6-4}
\end{eqnarray}
 [変化量]=[変化後の量]-[変化前の量]であることに注意しましょう。

 

 外力がする仕事と静電エネルギーの変化との関係から
\begin{eqnarray} F\Delta x&=&-\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S}\Delta x \tag{6-5} \\
F&=&-\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S} \tag{6-6}
\end{eqnarray}

 

 (6-6)式には負号がついていますから、外力は極板間を広げる向きにはたらきます。したがって、極板にはたらく力は外力の逆の向きですから、極板同士が引き合う向きにはたらくことがわかります。
 また、その大きさは\(x\)に依存していません。
つまり、極板を極板間隔の方向に動かしても、極板間の引力の大きさは変わりません。
これは、「(a)電荷一定」の条件の極板間引力の場合に成り立つことで、「(b)電圧一定」の条件の場合には成り立ちません。

 

  ところで、(3-9)式で、コンデンサーが\(Q\)に帯電している場合の電場の大きさ\(E\)が\(\frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)であることが示されています。
これを用いて、極板にはたらく力を\(F'\)として、(6-6)式を変形すると、
\begin{eqnarray} F'&=&\frac{Q^2}{2\varepsilon_0 S} \\
&=&\frac{1}{2}QE \tag{6-7}
\end{eqnarray}
となります。
 この式は、極板間にはたらく力を別の方法で求めた結果の(3-10)式と一致しました。

 

 

 

 

(a)-② 電荷一定の条件でコンデンサーに挿入された導電板にはたらく力を求める

 

 下図6-3(a)のように極板の面積が\(S\)で極板間距離が\(d\)であるコンデンサーを考えます。
極板は一辺\(L\)の正方形です。
極板間に同じ面積の導体板を極板の右端から距離\(x\)だけ挿入しています。

 

 コンデンサーには既に\(Q(Q\gt 0)\)の電荷が蓄えられています。
大きさ\(F\)の外力を加えて導体板を\(\Delta x\)だけ、さらに挿入する左向きに動かすことを考えます。
そうすると、導体板にはたらく電気力の大きさは\(F\)で向きは右向きに仮定したことになります。

 

 静電エネルギーの変化を求めるために、導体板が\(x\)挿入されたときの電気容量を求めます。
このときのコンデンサーの等価回路は図6-3(b)のようになります。
つまり、電極間距離が\(d\)のコンデンサー(電気容量\(C_1\))と\(d_1+d_2\)のコンデンサー(電気容量\(C_2\))が並列に接続されたコンデンサーとみなすことができます。

 

 合成容量を\(C_x\)とすれば、
\begin{eqnarray} C_1&=&\varepsilon_0\frac{L(L-x)}{d} \\
C_2&=&\varepsilon_0\frac{Lx}{d_1+d_3} \\
C_x&=&C_1+C_2 \\
&=&\varepsilon_0\frac{L(L-x)}{d}+\varepsilon_0\frac{Lx}{d_1+d_3} \\
&=&\frac{\varepsilon_0 L\left((L-x)(d_1+d_3)+dx\right)}{d(d_1+d_3)} \\
&=&\frac{\varepsilon_0L\left(x(d-d_1-d_3)+L(d_1+d_3)\right)}{d(d_1+d_3)} \\
&=&\frac{\varepsilon_0L\left(xd_2+L(d_1+d_3)\right)}{d(d_1+d_3)} \tag{6-8}
\end{eqnarray}

 

 さて、コンデンサーに蓄えられている電荷\(Q\)が一定という条件ですが、この\(Q\)は図6-3(b)のふたつのコンデンサー\(C_1、C_2\)にそれぞれ\(Q_1、Q_2\)に分配されています。
電荷の総量\(Q\)は一定ですから、\(Q=Q_1+Q_2\)ですが、\(Q_1、Q_2\)の値を求めないと、静電エネルギーを計算できません。

 

 ふたつのコンデンサーは並列に接続されていますから、それぞれのコンデンサーの電圧が等しくなるように電荷の再配置が起こるはずです。
すなわち、
\begin{eqnarray} \frac{Q_1}{C_1}&=&\frac{Q_2}{C_2} \tag{6-9} \\
Q&=&Q_1+Q_2 \tag{6-10} \\
上2式より、Q_1&=&\frac{C_1Q}{C_1+C_2}=\frac{C_1Q}{C_x} \tag{6-11} \\
Q_2&=&\frac{C_2Q}{C_1+C_2}=\frac{C_2Q}{C_x} \tag{6-12} \\
\end{eqnarray}
 となります。

 

 したがって、導電板が長さ\(x\)だけ挿入された場合のコンデンサー全体の静電エネルギー\(U(x)\)は、
\begin{eqnarray} U(x)&=&\frac{Q_1^2}{2C_1}+\frac{Q_2^2}{2C_2} \\
&=&\frac{\frac{C_1^2Q^2}{C_x^2}}{2C_1}+\frac{\frac{C_2^2Q^2}{C_x^2}}{2C_2} \\
&=&\frac{C_1Q^2}{2C_x^2}+\frac{C_2Q^2}{2C_x^2} \\
&=&\frac{Q^2}{2C_x^2}(C_1+C_2) \\
&=&\frac{Q^2}{2C_x}
\end{eqnarray}
 最終的に簡単な式になりましたが、これは、「V.静電エネルギー」で「③合成容量を利用します」のところで説明した方法を使った結果と一致します。
 つまり、合成容量\(C_x\)にもともとの一定の電荷\(Q\)が蓄積されいるときの静電エネルギーを求めればよいわけです。
\(Q_1、Q_2\)を求めなくてもよいという点が計算の省力化に役立つことがわかります。

 

 

 では、外力がする仕事と静電エネルギーの変化量の関係式を立てます。
\begin{eqnarray} F\Delta x&=&U(x+\Delta x)-U(x) \tag{6-13} \\
&=&\frac{Q^2}{2C_{x+\Delta x}}-\frac{Q^2}{2C_x} \\
&=&\frac{Q^2}{2\varepsilon_0L}\left(\frac{d(d_1+d_3)}{xd_2+d_2\Delta x+L(d_1+d_3)}-\frac{d(d_1+d_3)}{xd_2+L(d_1+d_3)} \right) \\
&=&\frac{Q^2d(d_1+d_3)}{2\varepsilon_0L}\frac{xd_2+L(d_1+d_3)-xd_2-d_2\Delta x-L(d_1+d_3)}{(x_2d_2+d_2\Delta x+L(d_1+d_3))(xd_2+L(d_1+d_3))} \\
&=&\frac{Q^2dd_2(d_1+d_3)}{2\varepsilon_0L}\frac{-d_2\Delta x}{(xd_2+d_2\Delta x+L(d_1+d_3))(xd_2+L(d_1+d_3))} \\
&\fallingdotseq&-\frac{Q^2dd_2(d_1+d_3)}{2\varepsilon_0L}\frac{\Delta x}{(xd_2+L(d_1+d_3))^2} \\
ここで、\Delta x &\ll& xという仮定をしました。 これより、 \\
F&=&-\frac{Q^2dd_2(d_1+d_3)}{2\varepsilon_0L(xd_2+L(d_1+d_3))^2}  \tag{6-14} 
\end{eqnarray}
 (6-14)式から外力\(F\)は負であることがわかりました。
外力は図6-3(a)で左向きを正にして立式しましたから、外力の正しい向きは右向きであることがわかります。
したがって、導電板が受ける電気力は左向きで、導電板を極板間に引き込み向きにはたらくことがわかりました。

 

 なお、実際には、導電板の端の部分では、電気力線は乱れ、合成容量は図6-3や(6-8)式で表されるものとはわずかに異なります。
ただ、それらは小さいものとして無視しています。
また、この問題のように導体板がまっすぐに引き込まれるには、それ以外の動きができないようなガイドが必要になりますが、それらも省略しています。

 

コンデンサー5-10_静電エネルギー(10)

 

 

 

 

(a)-③ 電荷一定の条件でコンデンサーに挿入された誘電体板にはたらく力を求める

 

 下図6-4(a)のように極板の面積が\(S\)で極板間距離が\(d\)であるコンデンサーを考えます。
極板は一辺\(L\)の正方形です。
極板間に同じ形状、同じ面積で、厚み\(d_2\)の誘電体板を極板の右端から距離\(x\)だけ挿入しています。

 

 コンデンサーには既に\(Q(Q\gt 0)\)の電荷が蓄えられています。
大きさ\(F\)の外力を加えて導体板を\(\Delta x\)だけ、さらに挿入する左向きに動かすことを考えます。
そうすると、導体板にはたらく電気力の大きさは\(F\)で向きは右向きに仮定したことになります。

 

 静電エネルギーの変化を求めるために、誘電体板が\(x\)挿入されたときの電気容量を求めます。
このときのコンデンサーの等価回路は図6-4(b)のようになります。
つまり、「電極間距離が\(d\)のコンデンサー」と「誘電体が詰まった極板間距離\(d_2\)で極板面積が\(Lx\)のコンデンサーと同じ極板面積で極板間距離が\(d_1+d_3\)のコンデンサーの直列接続」との並列接続したコンデンサーとみなすことができます。

 

コンデンサー5-11_静電エネルギー(11)

 

 この合成容量を求めることはできますが、その後に、静電エネルギーの変化量を計算するのに非常な労力が必要になるため、図6-4を扱うのはあきらめて、下の図6-5について計算を行います。
 こちらは、誘電体板がちょうど極板間を満たすように、誘電体の厚みが極板間距離に等しい場合です。
極板と誘電体との間に摩擦力ははたらかないものとします。

 

 これまでと同じ考え方をします。
 図6-5(a)のコンデンサーの合成容量\(C_x\)は、次のようになります。
\begin{eqnarray} C_x&=&\varepsilon_0\frac{L(L-x)}{d}+\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{Lx}{d} \\
&=&\frac{\varepsilon_0L}{d}(L-x+\varepsilon_rx) \tag{6-15}
\end{eqnarray}
注) \(\varepsilon_r=1\)のとき、(6-15)式に従えば、合成容量は\(\varepsilon_0\frac{L^2}{d}\)となります。
   このことは(6-15)式が正しいことの傍証になります。

 

 これから、
\begin{eqnarray} F\Delta x&=&\frac{Q^2}{2C_{x+\Delta x}}-\frac{Q^2}{2C_x} \tag{6-16} \\
&=&\frac{Q^2d}{2\varepsilon_0L}\left(\frac{1}{L+(\varepsilon_r-1)(x+\Delta x)}-\frac{1}{L+(\varepsilon_r-1)x}\right) \\
&=&\frac{Q^2d}{2\varepsilon_0L}\frac{L+(\varepsilon_r-1)x-L-(\varepsilon_r-1)(x+\Delta x)}{(L+(\varepsilon_r-1)(x+\Delta x))(L+(\varepsilon_r-1)x)} \\
&=&-\frac{Q^2d}{2\varepsilon_0L}\frac{(\varepsilon_r-1)\Delta x}{(L+(\varepsilon_r-1)(x+\Delta x))(L+(\varepsilon_r-1)x)} \\
&\fallingdotseq&-\frac{Q^2d}{2\varepsilon_0L}\frac{(\varepsilon_r-1)\Delta x}{(L+(\varepsilon_r-1)x)^2} \tag{6-17} \\
ここで、\Delta x &\ll& x という仮定を用いました。 これより、 \\
F&=&-\frac{Q^2d}{2\varepsilon_0L}\frac{(\varepsilon_r-1)\Delta x}{(L+(\varepsilon_r-1)x)^2} \tag{6-18}
\end{eqnarray}
注) (6-18)式に従えば、\(\varepsilon_r=1\)の場合、つまり、挿入するものが誘電体ではなく、真空や空気の場合、\(F=0\)となります。
   このことは(6-18)式が正しいことの傍証になります。

 

 (6-18)式から外力\(F\)は負であることがわかりました。
外力は図6-5(a)で左向きを正にして立式しましたから、外力の正しい向きは右向きであることがわかります。
したがって、誘電体板が受ける電気力は左向きで、誘電体板を極板間に引き込み向きにはたらくことがわかりました。

 

コンデンサー5-12_静電エネルギー(12)

 

 

 

 

 

 

(b)電圧一定の条件

 

 コンデンサーに加えられた電圧が一定という条件ならば、「外力がする仕事\(F\Delta x\)」+「電池がする仕事」=「静電エネルギーの変化」です。
なぜならば、コンデンサーの電圧が一定の状態で電気容量が変化するわけですから、電荷が移動します。
つまり、電池は仕事をします。
また、「ジュール熱」=「運動エネルギーの変化」=\(0\)です。

 

 

(b)-① 電圧一定の条件でコンデンサーの極板間にはたらく力を求める

 

コンデンサー5-13_静電エネルギー(13)

 

 右図でコンデンサーは抵抗を介して起電力\(V\)の電池に繋がっています。
コンデンサーは極板の面積が\(S\)、極板間距離が\(x\)です。
この状態で、両極板が及ぼし合う力を求めます。

 

 そのために、上の極板に注目して、上の極板に\(F\)の大きさの外力を下向きにはたらかせ、\(\Delta x\)動かしたことを考えます。

 

 動かす前の容量を\(C_1\)、動かしたあとの容量を\(C_2\)とします。
動かす前にコンデンサーに蓄積された電荷を\(Q_1\)、動かした後の電荷を\(Q_2\)とします。

 

そうすると、
\begin{eqnarray} C_1&=&\varepsilon_0\frac{S}{x} \tag{6-19} \\
C_2&=&\varepsilon_0\frac{S}{x-\Delta x} \tag{6-20} \\
Q_1&=&C_1V=\varepsilon_0\frac{SV}{x} \tag{6-21} \\
Q_2&=&C_2V=\varepsilon_0\frac{SV}{x-\Delta x} \tag{6-22} \\
\end{eqnarray}

 

 電池のする仕事を\(P\)、静電エネルギーの変化を\(\Delta U\)とします。
電荷が\(Q_1\)から\(Q_2\)に変化していて、電池はこの変化分の電荷を電圧(電位差)\(V\)で動かしたわけですから、
\begin{eqnarray} P&=&(Q_2-Q_1)V=(C_2V-C_1V)V=(C_2-C_1)V^2 \tag{6-23} \\
\Delta U&=&\frac{1}{2}C_2V^2-\frac{1}{2}C_1V^2=\frac{1}{2}(C_2-C_1)V^2 \tag{6-24} \\
F\Delta x+P&=&\Delta U \tag{6-25} \\
F\Delta x&=&\Delta U-P \\
&=&\frac{1}{2}(C_2-C_1)V^2-(C_2-C_1)V^2 \\
&=&-\frac{1}{2}(C_2-C_1)V^2 \tag{6-26} \\
&=&-\frac{V^2}{2}\left(\varepsilon_0\frac{S}{x-\Delta x} -\varepsilon_0\frac{S}{x} \right) \\
&=&-\frac{\varepsilon_0SV^2}{2}\frac{x-x+\Delta x}{x(x-\Delta x)} \\
ここで、\Delta x &\ll& x と仮定します   \\
&\fallingdotseq&-\frac{\varepsilon_0SV^2}{2x^2}\Delta x \\
したがって、F&=&-\frac{\varepsilon_0SV^2}{2x^2} \tag{6-27}
\end{eqnarray}
 \(F\)が負になりましたから、外力は極板間を広げる向きにはたらきます。したがって、極板にはたらく力は極板同士が引き合うようにはたらくことがわかります。

 

 その極板間の引力の大きさは、極板間隔\(x\)に依存しています。
\(x\)が小さくなるにつれて、その大きさは大きくなります。
「(a)電荷一定」の場合と様子が異なることに注意しましょう。

 

 

 

 

 

(b)-② 電圧一定の条件でコンデンサーに挿入された導電板にはたらく力を求める

 

 下図6-7(a)のように極板が1辺\(L\)の正方形で、極板間距離が\(d\)であるコンデンサーを考えます。
極板間に、同じ形状で同じ面積の導体板を極板の右端から距離\(x\)だけ挿入しています。

 

 コンデンサーは抵抗を介して起電力\(V\)の電池に接続されています。
大きさ\(F\)の外力を加えて導体板を\(\Delta x\)だけ、さらに挿入する左向きに動かすことを考えます。
この場合、導体板にはたらく電気力の大きさは\(F\)で向きは右向きと仮定したことになります。

 

 さて、(b)-①のときと同じように、静電エネルギーの変化\(\Delta U\)と電池のする仕事\(P\)を求めます。

 

 静電エネルギーの変化を求めるために、導体板が\(x\)挿入されたときの電気容量を求めます。
このときのコンデンサーの等価回路は図6-7(b)のようになります。
つまり、極板間距離が\(d\)のコンデンサー(電気容量\(C_1\))と極板間距離\(d_1+d_2\)のコンデンサー(電気容量\(C_2\))が並列に接続されたコンデンサーとみなすことができます。

 

 導体板を\(x\)挿入したときの、図6-7(b)で左側のコンデンサーの電気容量を\(C_1(x)\)、右側を\(C_2(x)\)、ふたつの合成容量を\(C'(x)\)とします。

 

\begin{eqnarray} C_1(x)&=&\varepsilon_0\frac{L(L-x)}{d} \tag{6-28} \\
C_2(x)&=&\varepsilon_0\frac{Lx}{d_1+d_3} \tag{6-29} \\
C'(x)&=&C_1(x)+C_2(x)=\varepsilon_0L\left(\frac{L-x}{d}+\frac{x}{d_1+d_3}\right) \\
&=&\varepsilon_0L\frac{(L-x)(d_1+d_3)+dx}{d(d_1+d_3)} \\
&=&\varepsilon_0L\frac{Ld_1+Ld_3-x(d_1+d_3-d)}{d(d_1+d_3)} \\
&=&\varepsilon_0L\frac{Ld_1+Ld_3+xd_2}{d(d_1+d_3)} \tag{6-30}
\end{eqnarray}

 

 これより、
\begin{eqnarray} P&=&V\times\left(C'(x+\Delta x)V-C'(x)V\right)=\left(C'(x+\Delta x)-C'(x)\right)V^2 \tag{6-31} \\
\Delta U&=&\frac{1}{2}C'(x+\Delta x)V^2-\frac{1}{2}C'(x)V^2=\frac{1}{2} \left(C'(x+\Delta x)-C'(x)\right)V^2 \\
F\Delta x+P&=&\Delta U \tag{6-32} \\
F\Delta x&=&\Delta U-P \\
&=&\frac{1}{2}\left(C'(x+\Delta x)-C'(x)\right)V^2-\left(C'(x+\Delta x)-C'(x)\right)V^2 \\
&=&-\frac{1}{2}\left(C'(x+\Delta x)-C'(x)\right)V^2 \\
&=&-\frac{V^2}{2}\left(\varepsilon_0L\frac{Ld_1+Ld_3+(x+\Delta x)d_2}{d(d_1+d_3)}-\varepsilon_0L\frac{Ld_1+Ld_3+xd_2}{d(d_1+d_3)} \right) \\
&=&-\frac{V^2}{2}\varepsilon_0L\frac{d_2\Delta x}{d(d_1+d_3)} \\
F&=&-\frac{\varepsilon_0LV^2}{2}\frac{d_2}{d(d_1+d_3)} \tag{6-33}
\end{eqnarray}
 (6-33)式から外力\(F\)は負であることがわかります。
外力は図6-7(a)で左向きを正にして立式しましたから、外力の正しい向きは右向きであることがわかります。
したがって、導電板が受ける電気力は左向きで、導電板を極板間に引き込む向きにはたらくことがわかります。
 なお、この場合にも(b)-①の場合と同じく、電池のする仕事\(P\)の大きさが静電エネルギーの変化\(\Delta U\)の大きさの倍であることがわかります。
 電池がコンデンサーを充電する場合、電池のする仕事の半分がジュール熱に変わり、半分が静電エネルギーとして蓄えられるのでした。

そしてこのとき、ジュール熱は回路の抵抗の大きさに依存しません。

 

コンデンサー5-14_静電エネルギー(14)

 

 

 

 

 

 

(b)-③ 電圧一定の条件でコンデンサーに挿入された誘電体板にはたらく力を求める

 

 下図6-8(a)のように、極板が1辺の長さが\(L\)の正方形で、極板間距離が\(d\)であるコンデンサーを考えます。
極板間に同じ形状、同じ面積で、厚みがちょうど極板間に収まる誘電体板を極板の右端から距離\(x\)だけ挿入しています。

 

 コンデンサーは抵抗\(R\)を介して起電力\(V\)の電池に接続されたままになっています。
大きさ\(F\)の外力を加えて導体板を\(\Delta x\)だけ、さらに挿入する左向きに動かすことを考えます。
この場合、導体板にはたらく電気力の大きさは\(F\)で向きは右向きに仮定したことになります。

 

 さて、(b)-①②のときと同じように、静電エネルギーの変化\(\Delta U\)と電池のする仕事\(P\)を求めます。

 

 静電エネルギーの変化を求めるために、誘電体板が\(x\)挿入されたときの電気容量を求めます。
このときのコンデンサーの等価回路は図6-8(b)のようになります。
つまり、極板間距離が\(d\)のコンデンサー(電気容量\(C_1(x)\))と極板間距離が\(d\)で極板間の物質の比誘電率が\(\varepsilon_r\)のコンデンサー(電気容量\(C_2(x)\))が並列に接続されたコンデンサーとみなすことができます。

 

 \(C_1(x)\)と\(C_2(x)\)の合成容量を\(C'(x)\)として、
\begin{eqnarray} C_1(x)&=&\varepsilon_0\frac{L(L-x)}{d} \tag{6-34} \\
C_2(x)&=&\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{Lx}{d} \tag{6-35} \\
C'(x)&=&C_1(x)+C_2(x)=\varepsilon_0\frac{L(L-x)}{d}+\varepsilon_0\varepsilon_r\frac{Lx}{d}
&=&\frac{\varepsilon_0L}{d}\left(L-x+\varepsilon_r x \right) \\
&=&\frac{\varepsilon_0L}{d}\left(L+(\varepsilon_r-1)x \right) \tag{6-36}
\end{eqnarray}

 

 これより、
\begin{eqnarray} P=\left(C'(x+\Delta x)-C'(x)\right)V^2 \tag{6-37} \\
\Delta U&=&\frac{1}{2}\left(C'(x+\Delta x)-C'(x) \right)V^2 \tag{6-38} \\
F\Delta x+P&=&\Delta U \tag{6-39} \\
F\Delta x&=&\Delta U-P \\
&=&\frac{1}{2}\left(C'(x+\Delta x)-C'(x) \right)V^2-\left(C'(x+\Delta x)-C'(x)\right)V^2 \\
&=&-\frac{1}{2}\left(C'(x+\Delta x)-C'(x) \right)V^2 \\
&=&-\frac{V^2}{2}\left(\frac{\varepsilon_0L}{d}\left(L+(\varepsilon_r-1)(x+\Delta x) \right)-\frac{\varepsilon_0L}{d}\left(L+(\varepsilon_r-1)x \right) \right) \\
&=&-\frac{\varepsilon_0LV^2}{2d}(\varepsilon_r-1)\Delta x \\
F&=&-\frac{\varepsilon_0LV^2}{2d}(\varepsilon_r-1) \tag{6-40}
\end{eqnarray}
 (6-40)式から外力\(F\)は負であることがわかります。
外力は図6-8(a)で左向きを正にして立式しましたから、外力の正しい向きは右向きであることがわかります。
したがって、誘電体板が受ける電気力は左向きで、誘電体板を極板間に引き込む向きにはたらくことがわかります。

 

コンデンサー5-15_静電エネルギー(15)

Ⅶ.コンデンサーに誘電体を挿入するときに外力がする仕事を考える

 この章を新たに追加しました。

 

「Ⅵ.コンデンサーが導体や誘電体を引き込む力を考える」で、次の説明をしましたが、これについて具体的な例題を考えます。

 

 このようにを問われる以外に、導電板(誘電体板)を極板間から完全に外に出す(中に入れる)のに必要な外力のする仕事を問われる場合があります。
特に、上表で「近似が必要」な場合に、この形で出題される可能性があります。

 

 このとき、(a)電荷が一定の場合では、
 [導電板(誘電体板)を極板間から完全に外に出す(中に入れる)のに必要な外力のする仕事]=[完全に外に出た(中に入れた)状態の静電エネルギー]-[外に出す(中に入れる)前の状態での静電エネルギー] から求めます。

 

      (b)電圧が一定の場合では、
 [導電板(誘電体板)を極板間から完全に外に出す(中に入れる)のに必要な外力のする仕事]=[完全に外に出た(中に入れた)状態の静電エネルギー]-[外に出す(中に入れる)前の状態での静電エネルギー]-[電池のする仕事] として計算します。

 

 

 

 例題は、(a)電荷が一定の場合で、誘電体を挿入する場合を考えます。
この場合は、「電池のした仕事」を考慮する必要はありません。

 

コンデンサー7-1_仕事

 

 図7-1に示すように、1辺の長さが\(L\)の正方形の極板を持つコンデンサーに、同じ形状、同じ大きさで比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を挿入します。
極板間間隔は\(d\)、誘電率は真空の誘電率\(\varepsilon_0\)、誘電体の厚みは\(d\)で極板の間にちょうどはまる寸法です。
誘電体と極板との間に摩擦はないものとします。

 

 

 コンデンサーの電極には\(Q\)の電荷が蓄えられていて、
最初、誘電体は(a)のようにコンデンサーの外にあり、外力を加えながら誘電体をコンデンサーの極板間にゆっくりと挿入し、極板間をこの誘電体で満たしました。

 

このとき外力がした仕事を求めます。

 

 

 さて、「Ⅵ.コンデンサーが導体や誘電体を引き込む力を考える」の「(a)-③ 電荷一定の条件でコンデンサーに挿入された誘電体板にはたらく力を求める」で見たように、誘電体には電気力がはたらきます。
その大きさ\(F\)は、(6-18)式で表されます。
\begin{equation}
F=-\frac{Q^2d}{2\varepsilon_0L}\frac{(\varepsilon_r-1)\Delta x}{(L+(\varepsilon_r-1)x)^2} \tag{6-18}
\end{equation}
 向きは、誘電体を引き込む向きですから、外力を加えなくても誘電体は極板間に向かって動きます。
外力がするのは、その動きをゆっくりにして、運動エネルギーの変化やジュール熱を\(0\)にすることです。
電荷一定という設定ですから、電池がする仕事も\(0\)です。
(以上より、実際の外力の向きは右向きで、(誘電体の動く向きと逆ですから)外力のする仕事は負になると予想できます。)

 

 さて、答は、「Ⅵ」で考察したように、[外力のする仕事]=[誘電体を挿入した後の静電エネルギー]-[誘電体を挿入する前の静電エネルギー] から求められます。
ここでも、静電気力(あるいは、その仕事)について考える必要はありません。
 なお、外力のする仕事を\(FL\)として計算することはできません。 (6-18)式からわかるように、外力の大きさは一定ではないからです。

 

 

 [外力のする仕事]を\(W\)、[誘電体を挿入した後の静電エネルギー]を\(U\)、[誘電体を挿入する前の静電エネルギー]を\(U_0\)、誘電体を挿入した後のコンデンサーの電気容量を\(C\)、誘電体を挿入する前のコンデンサーの容量を\(C_0\)とすると、
\begin{eqnarray} C_0&=&\varepsilon_0\frac{L^2}{d}、C=\varepsilon_r\varepsilon_0\frac{L^2}{d} \\
U_0&=&=\frac{Q^2}{2C_0}、U=\frac{Q^2}{2C} \\ 
W&=&U-U_0 \\
&=&\frac{Q^2}{2C}-\frac{Q^2}{2C_0} \\
&=&\frac{Q^2}{2}\left(\frac{1}{C}-\frac{1}{C_0}\right) \\
&=&\frac{Q^2}{2}\left(\frac{d}{\varepsilon_r\varepsilon_0 L^2}-\frac{d}{\varepsilon_0 L^2}\right) \\
&=&\frac{dQ^2}{2\varepsilon_0 L^2} \left(\frac{1}{\varepsilon_r}-1\right)
\end{eqnarray}
となります。
 \(\varepsilon_r>1\)ですから、\(W<0\)となります。
これは、誘電体の進む向きと外力の向きが逆であることを示します。

 

 誘電体を挿入するのに、その向きと逆向きの外力を加えるというのは奇妙な感じがします。
 誘電体は電場から挿入する向きに力を受けるので、外力を加えなくとも動きます。
問題文の中の「ゆっくり挿入する」というのがポイントで、外力がなければ勢いよく(つまり、運動エネルギーが増加する形で)挿入されます。
外力はその勢いを止めるために用いられるわけで、このときには運動エネルギーは増加しません。

 

 問題としては、誘電体を極板間から外に出すというほうが、しっくりくると思います。

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